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人間だと輸血が必要になった場合は、全国各地に日本赤十字社の血液センターから血液を取り寄せることができます。
しかし、日本には動物専用の血液センターがありません。
血液は1ヵ月ほどは保存ができます(特殊な方法で特定の成分を分離すれば5年ほど保存できたりもします)が、長期保存させることが難しいというのも、供血猫や供血犬の血液を頼りにしている理由のひとつだといえるでしょう。
また、ただ一言に輸血といっても、血液のどの成分を必要としているかによって、使用する血液の質が変わってくることになります。
例えば血小板という成分は採血してから半日ほどしか保存できないので、病気によっては新鮮な血液しか使用できないこともあります。
このような背景があるため、動物病院の中には血液を提供してくれる献血犬や供血犬を飼っているところもあるのです。
動物病院で飼われている供血猫や供血犬の多くは、里親が見つからなかったり、動物病院の前に捨てられていたりしたような子だといわれています。
供血をする動物だと聞くと、なんとなく「かわいそう」だとか、「日々の生活を楽しめていないのでは?」と思う方もいるかもしれません。
また、動物愛護の点から見ると、供血制度自体に疑問を持つこともあるかと思います。
しかし、供血猫や供血犬は病院のスタッフさんによって定期的に細かい健康診断を行っていたり、夜は家に連れて帰ったりと愛情深く育てられていることも多いのです。
例えば、供血をするとき以外は、一般的なおうちで飼われている子と同じようにケージの外で生活していることもあります。
そのため、供血をするために飼われているからといって、必ずしも辛い思いや悲しい思いばかりをしているわけではないといえるでしょう。
そんな中でも特に有名なのが、供血猫として数多くの命を救った「ばた子」ちゃん。
ばた子ちゃんは飼い主さんが飼育を放棄して、「安楽死させてほしい」と病院に連れてきた猫でした。
しかし、「死なせたくない」と思った獣医さんは、供血猫としてばた子ちゃんを引き取ることにしたのです。
こうした経緯で供血猫になったばた子ちゃんは数多くの仲間を救い、供血猫の役割を全うしました。
ばた子ちゃんのお話は、「空から見ててね いのちをすくう“供血猫"ばた子の物語 (集英社みらい文庫)」という著書で詳しく知ることができます。
本の中では、供血猫としての役割だけでなく、ばた子ちゃんと作者である「はせがわまみ」さんとの交流も描かれているので、気になった方はぜひ一度手にとってみてくださいね。
人間と同じで、 猫 や 犬 も個体によって血液型が違います。
例えば、猫の血液型はA、B、AB型の3種類(近年ではMikという血液型の報告もあります)で、O型は存在しません。
日本では猫の血液型の割合はA型が全体の95%、B型が4~5%、AB型は1%にも満たない程度だといわれています。
A型は シャム やバーミーズ、 トンキニーズ 、 ロシアンブルー 、 アメリカンショートヘア といった 猫種 や、一般的な 雑種猫 にも見られやすい血液型です。
ちなみに、アメリカンショートヘアはほぼA型といわれています。
そして、B型は ペルシャ 、 ヒマラヤン 、 スコティッシュフォールド 、 スフィンクス 、 アビシニアン といった猫種に多く見られやすい血液型です。
また、 ブリティッシュショートヘア やデボンレックスにも通常より見られます。
AB型に至ってはAB型同士の両親の間にしか生まれないという特徴があるため、とても珍しい血液型だといえるでしょう。
(※A型の親同士からもAB型が生まれることもあります。)
さらに、猫も人間と同じで、違う血液型の血を輸血してしまうと、激しい拒絶反応を起こしてしまうので命の危険があります。
こうした理由があるため、A型以外の猫が急に大きな手術を受けなければならなくなったときは十分な血液が確保できず、手術が難しくなってしまうことも少なくないのです。
※合わせて読みたい: 【獣医師が解説】猫の血液型を知っていますか?貧血に備えて愛猫の血液型を把握しておこう
3種類の血液型しかない猫に比べて、犬は13種類以上もの血液型が存在し、日本ではそのうちの9種類の血液型が見られることが多いでしょう。
しかし、現在も研究によって新たな血液型が明らかになっています。
例えば、近年 ダルメシアン から発見された「Dal」は、新しい血液型である可能性が高いといわれているのです。
海外での報告によると、Dalはドーベルマンの58%、シーズーで43%の個体が持っている様で、他の犬種に関しての報告は見つけられませんでした。
また、その他にKaiと名付けられた血液型も提唱されています。
そして、犬の血液型は猫とは違って、「DEA式」といって、赤血球の形によって分けられているため、少し複雑な仕組みになっています。
具体的な血液型としては、DEA1(DEA1.1、DEA1.2)、DEA3、DEA4、DEA5、DEA6、DEA7、DEA8が日本の犬に見られやすい血液型だといわれています。
ただ、研究が進められていくと血液型の呼称の統合(近年DEA1.1、DEA1.2はまとめてDEA1となっている)や、削除(DEA6やDEA8は新しい文献から消えている)もあり、まだまだ解明されていない部分も多くあります。
また、一匹につき複数種類の血液型を持っているのも犬の特徴だといえるでしょう。
例えば「うちのコの血液型はDEA1(+)、DEA3(+)、DEA4(+)、DEA5(+)、DEA7(ー)です」というように、陽性と陰性を含めて多くの血液型を持っています。
中でも、「DEA1抗体」を持っているかどうかは、輸血のときにとても重要です。
ほとんどの犬はDEA1抗体を持っていない(陰性)ため、初回の輸血によって体の中にDEA1が入ってきても拒絶反応を示す可能性が低いといわれています。
そのため例えば、DEA1が陰性の犬に陽性の血液を輸血することも、初めてであれば可能だとされているのです。
(ちなみにその状況で輸血した場合に、もう一度陽性の血液を入れた場合、少なくとも15%の確率で悪い反応が起こると言われています。)
しかし、二回目以降の輸血からは何らかの拒絶反応が出てしまう可能性も高くなるという指摘もあるので注意をしなければなりません。
このように犬の血液型は複雑で、研究によって明らかになる新しいものもあるため、健康なうちから愛犬の血液型を知っておくことが大切だといえるでしょう。
供血猫の血液にばかり頼っていると、心身ともに猫へ負担を与えてしまうこともあります。
そのため、一部の病院では「血液バンク」として血液を保存するため、専用の冷蔵庫や冷凍庫などを導入しているところもあるそうです。
こうした血液バンクを設置することにより、献血ドナーを募集することもできるようになるため、供血猫や供血犬が感じる負担を減らすことにも繋がります。
動物病院の中には、飼い主さんに飼っている猫や犬を献血ドナーとして登録してもらっているところもあります。
献血ドナーとなるには、様々な条件をクリアする必要があり、人間と同じで献血にふさわしい血液を持っているかどうかを詳しく検査をしなければなりません。
飼い主さんの中には自分の飼い猫の血液を提供することに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、こうした献血ドナーが増えれば、献血猫や供血犬の負担を減らすことができます。
さらに飼い猫が、B型やAB型といった珍しい血液型の場合は献血ドナーになることで、一匹でも多くの仲間を助けることも可能になるでしょう。
他の仲間に血液を提供できる献血ドナーになるには、動物病院でドナー登録をする必要があります。
ただし、その際は以下のような条件があり、猫と犬では条件に違いがあるので、注意が必要です。
これらの条件以外にも血液提供時に猫のストレスを減らすため、病院に通い慣れていることや採血のときに大人しくできるといった性格面の条件を満たしていることも大切になってきます。
性格に難ありの場合は鎮静をかける場合もあるので、そこに同意できるかどうかも大きなハードルとなってしまいます。
こうした条件をクリアした後は健康診断や詳しい検査を行い、健康であることが証明され、ドナー登録ができるようなるのです。
ただし、検査の中には結果が出るまでに時間がかかるものもあるので、その日のうちに供血をすることは難しいこともあります。
安全な血液を提供するため、また提供してもらう側へのリスクを最小限に減らすために、これだけ厳しい条件としっかりとした検査が行われています。
これらの他にも、大型犬であることも献血ドナーとしてはふさわしい条件であるとされています。
体が大きい大型犬は、その分供血できる血液の量が多いので、多くの仲間を救うことができるのです。
また、犬の場合も猫と同じで、麻酔をかけずに採血ができるような温厚な性格であることが理想的な条件だとされています。
なお、犬も猫も短期間の間に供血を何度もすることはできないため、次の供血までに1~2ヶ月程度の期間を空ける必要があります。
供血の継続は毎年、飼い主さんへの意思確認が行われるので、飼い猫の体調や年齢などを考慮しながら検討していきましょう。
供血猫や供血猫の負担を減らすためには、まずは「こうした存在がいるんだ」ということを知ることが大切です。
自身の飼い猫や飼い犬をドナー登録できないと思う方も、ひとりでも多くの人に供血動物の存在を知らせていきましょう。
こうして多くの人が供血猫や供血犬の存在を知り、認知度が高まっていけば、ドナー登録の数も増えていき、結果的に彼らの負担を減らすことにも繋がっていくはずです。
日本ではまだまだ動物の献血に対する体制が整ってはいませんが、アメリカでは人間と同じように、犬の献血車が街の中を走っているといわれています。
だからこそ、日本もアメリカを参考にして、動物の献血がもっと気軽に正しく行われるようにしていくことが大切なのではないでしょうか。
この記事を読んで供血猫や供血犬について興味を持った方は、ぜひアメリカと日本の献血ドナー制度の違いについても調べ、動物が優しい守られる世界になるよう、身近な人に情報を発信してみてくださいね。
監修:ガイア動物病院 院長 松田唯(まつだ ゆい)
埼玉県生まれ。
北里大学獣医畜産学部卒業後、千葉県内と東京都内の動物病院で勤務。
2019年7月、 ガイア動物病院 (東京都杉並区)開設、院長となる。
大学時代は医療の専門用語が苦手だったこともあり、治療法や薬について分かりやすく説明し、治療法のメリット・デメリットを理解して飼い主様が選択できる診療を心掛けている。
最終更新日 : 2021/08/05
公開日 : 2017/11/17