本ページに掲載のリンク及びバナーには広告(PR)が含まれています。
動物病院の通院理由の中で、耳の病気は 皮膚の病気 に次いで多く、通院回数も多くなりがちです。
なお、犬がなりやすい耳の病気は、大きく「外耳炎」「寄生虫感染」「腫瘍」「耳血腫」の4つに分類することができます。
細菌やマラセチアなどの微生物が原因で起こる場合と、アレルギーやアトピーが原因になる場合があります。
もちろん、以上の原因すべてが一気に起こっている場合もあります。
耳ダニと疥癬が原因になることがあり、その痒みは強烈です。
このような寄生虫は、ほかの犬に感染することもあります。
犬の耳ダニは人に移りませんが、疥癬は移る可能性があるため要注意です。
腫瘍には良性と悪性がありますが、見た目だけでは判断できません。
内服薬や外用薬で治療できるものはほとんどありませんので、手術を行うケースが多いです。
耳に強い衝撃が加わり耳介の中で出血が起こる病気です。
犬がなりやすい代表的な耳の病気には、以上のような病気があります。
次に、このような病気の症状・原因・治療方法・予防について詳しく解説していきます。
細菌性外耳炎は細菌感染が原因で起こる外耳の炎症です。
黄色っぽい耳垢が出るのが特徴で、かゆみが強く赤く腫れ、黄色っぽい耳垢がでることが多い外耳炎です。
細菌性外耳炎は犬の外耳炎でよく見られ、黄色っぽい耳垢や耳だれが出ることが特徴です。
頭を振る、肢で耳を引っ掻く、耳が赤くなり腫れる、耳を床や壁にこすりつけるなどの仕草が見られます。
進行すると鼓膜に穴が開いてしまうこともあります。
再発しやすいため、しっかり治療することが大切です。
ブドウ球菌などの細菌が原因になることが多いです。
治りにくかったり再発を繰り返す場合は、アレルギーが関与していることもあります。
動物病院では、まず耳の中の汚れや耳垢を取り除きます。
汚れが残ったままでは薬の効果が弱くなることがありますので、できるだけきれいに取り除きます。
症状が軽い場合は、点耳薬を定期的に入れて治療します。
痒みや腫れ、痛みがひどい場合は、抗生剤や消炎剤などの内服薬や注射が必要になることがあります。
治りにくい場合や再発を繰り返す場合は、どのような細菌が原因になっているのか検査を行うことをお勧めします(細菌同定)。
原因菌がわかれば、最適な抗生剤を投与し治療します。
細菌性外耳炎の予防方法は、こまめに耳をチェックすることです。
軽く汚れが付くのは普通ですが、黄色っぽい耳垢が多くなってきたり、耳の臭いがいつもより強いと感じたら早めに受診しましょう。
耳を肢でいつも以上に掻いていたり、頭を振る回数が増えてきたら、必ず耳をチェックしてください。
マラセチア性外耳炎は、マラセチアという酵母様真菌が原因で起こります。
痒みが強く、チョコレートのような耳垢が出るのが特徴で、独特の発酵臭がします。
痒みが非常に強く、独特の発酵臭とチョコレートのようなべっとりした耳垢が出ます。
悪化すると黄色いワックス様のベタベタした塊が耳介にたくさん付着するようになります。
さらに慢性化すると、皮膚が象の皮膚のように固くしわが入る苔癬化を起こします。
耳道が腫れてしまい耳の穴がふさがってしまうこともあります。
マラセチアは数種類ありますが、犬にはMalassezia pachydermatis(マラセチア パチデルマティス)という種類が存在します。
犬の皮膚に常在する菌ですので、他から移ってくるというよりは、免疫力の低下や皮膚のコンディションの悪化が原因になり、マラセチアが一気に増え炎症が起こります。
マラセチア性外耳炎は抗真菌薬を投与して治療します。
症状が軽い場合は点耳薬のみで治療できますが、症状が重い場合は内服薬も併用します。
マラセチアは特徴的な形をしていますので、顕微鏡で簡単に確認することができます。
定期的に耳のチェックをしましょう。
梅雨~夏、暖房が入る冬には再発しやすいので、症状がなくても点耳薬を2~3日に1回はさすことで、予防できることもあります。
犬の耳に症状が出る原因の中で、最も発生率が高いのはアレルギー性のものです。
アレルギーの中でも、最も原因になりやすいのは食物アレルギーとアトピー性皮膚炎です。
細菌性外耳炎やマラセチア性外耳炎ほど耳垢が出ませんが、非常に強い痒みがあります。
耳の中が真っ赤になり、肢で耳を掻いたり床やサークルの柵の部分に耳をこすりつけたりします。
掻きすぎて耳から血が出てしまうこともあります。
アトピー性皮膚炎の犬の約8割は外耳炎を併発しており、また食物アレルギーの犬の約8割は外耳炎を併発しているといわれています。
外耳炎の多くはアレルギー体質に関連していると言えます。
アレルギーの原因が何かは、アレルギー検査でおおよそ分かります。
外耳炎を繰り返している場合や耳だけでなく、他の部位も痒がる場合はアレルギー検査を受けることをお勧めします。
アレルギーが原因になる外耳炎の場合は、アレルギーの原因になるものをアレルギー検査で特定し、できるだけ接しないようにすることが大切です。
例えば、食べ物が原因の場合はアレルゲンが含まれていない除去食を食べたり、アレルゲンに慣れるために徐々に接する量を増やしていく減感作療法を行うこともできます。
ただし、減感作療法は無理のないペースで徐々に慣らしていくために時間がかかります。
花粉やハウスダストに反応している場合は、できるだけアレルゲンに接しないために生活の工夫が必要です。
原因になる花粉がわかれば、花粉が飛ぶ時期の散歩を控えることで症状が軽くなります。
空気清浄機を利用したり、家ダニの隠れ場所になる畳やじゅうたんのある部屋には犬を入れないようにすることも治療の一環です。
また、痒みがひどいときには、ステロイドや免疫抑制剤などのかゆみをコントロールする薬を投与します。
アレルギーやアトピーにならないための具体的な予防は、今のところないのが実情です。
アトピーについては皮膚のバリア機能の低下が原因になり、アレルゲンが体内に侵入して痒みが起こるのではないかと言われています。
子犬のころから皮膚に必要な脂肪酸が多く含まれたドッグフードを食べることで皮膚のバリア機能が上がり、アトピーを起こしにくくなるといわれています。
耳ダニはミミヒゼンダニとも呼ばれる寄生虫です。
耳の中で生活し、痒みがひどく、黒く乾いた耳垢が大量に出ることが特徴です。
非常に痒がり、黒くて乾燥した耳垢が大量に出るのが特徴です。
痒みが強いため耳を気にして激しく掻き、耳の後ろや首が傷だらけになることもあります。
症状の重い側に頭を傾けてしまうこともあります。
耳ダニの感染が原因です。
耳ダニは犬の外耳から鼓膜までの間の耳道の表面に生息します。
大きさは0.3~0.4㎜で白っぽく、肉眼では見えません。
耳の中に産卵し3週間ほどで成虫になり、皮膚や外耳道の表面で発育します。
犬の血液を栄養分にして成長し、黒い耳垢には耳ヒゼンダニの糞が含まれています。
痒みはこのダニに対するアレルギー反応です。
大量の耳垢が出ますので、治療終了まで定期的な耳掃除が必要です。
さらに、耳ダニの駆除・予防薬を投与します。
皮膚に滴下するタイプの薬も効果的ですし、内服薬でも治療可能です。
滴下薬も内服薬も3週間に1回、耳ヒゼンダニが確認できなくなるまで投与は継続します。
このような治療薬は耳ヒゼンダニの成虫には効果がありますが、卵には効果がありません。
そのため、卵が孵化する3週間を目処に投与し、卵から孵化した成虫を駆除していきます。
予防は治療に使用する薬と同じものを投与します。
治療の場合は3週間に1回投与しますが、予防目的の場合は1か月に1回投与します。
感染力が強く、同居の動物がいる場合は簡単に感染しますので、しっかり予防しましょう。
疥癬はセンコウヒゼンダニとも言い、皮膚にトンネルを掘って生活しています。
痒みが出る病気の中でも1,2を争うほどの痒さで、人にも移る可能性があります。
耳介の端を触るとボコボコしたかさぶたが多数あるような感じになり、被毛と共にかさぶたが取れることもあります。
痒みが非常に強く、耳を激しく掻いて耳周辺の被毛が脱毛することもしばしばです。
慢性化すると、感染部位の皮膚が象の皮膚のように分厚くなることもあります。
感染が疑われる場所を触ると、足を激しく動かして掻こうとする仕草が起こります。
センコウヒゼンダニというダニの感染で起こります。
大きさは約0.4㎜程度で、皮膚の一番外側の角質層と呼ばれる部分にトンネルを掘り生息します。
このトンネルの中で産卵し、孵化した幼ダニはトンネルから出て毛包に入り込み約2週間で成ダニになります。
皮膚の激しい痒みは、このダニに対するアレルギー反応といわれています。
耳の皮膚に寄生するだけでなく全身の皮膚に寄生して、犬に寄生したセンコウヒゼンダニは人に寄生し、同様の痒みを引き起こすため要注意です。
殺ダニ効果のある内服薬や塗布薬を投与します。
痒みがひどいため、プレドニゾロンなどの痒み止めを投与すると症状が劇的に悪化するので、必ずセンコウヒゼンダニの感染有無の確認をするようにしてください。
掻きむしって皮膚がジクジクした状態になっている場合は、抗生剤などの投与も必要になります。
1か月に1回、ノミやマダニの予防薬を投与することで同時に予防が可能です。
このような予防薬の中には、センコウヒゼンダニに対して予防効果がないものもありますので、獣医師に確認の上投与してください。
センコウヒゼンダニは人へも容易に感染します。
犬の予防をしっかり行い、痒がり方が尋常でないときには早めに動物病院を受診しましょう。
また、人に感染した時には赤い小さな発疹ができることが多く、発疹のある部分が異常に痒くなります。
犬が疥癬に感染している場合や疑いのある時に、このような症状が現れたら早めに皮膚科を受診し、犬が治療中であることを報告してください。
犬の耳にできる腫瘍には良性と悪性があります。
見た目では判別がつきませんので、病理検査が必要になります。
耳介や耳道内に塊のような腫瘤ができる場合と、ジクジクとした潰瘍状の一見皮膚炎に見えるものがあります。
このような腫瘍には良性と悪性があります。
良性のものは「耳垢腺腫」「乳頭腫(パピローマ)」「基底細胞腫」などが代表的です。
悪性のものは「耳垢腺癌」「扁平上皮癌」が代表的です。
良性のものは徐々に大きくなりますが、大きくなるスピードが遅いのが特徴です。
一方、悪性のものは大きくなるスピードが速く、周りの組織にも影響を与えます。
耳にできる腫瘍の治療方法は手術を行い切除することです。
悪性か良性かの判断は見た目ではできず、切除後に病理検査を行って確定します。
特に耳垢腺癌や扁平上皮癌は悪性度が強いため、後に抗がん剤投与が必要になることもあります。
腫瘍で予防できるものは比較的少ないのですが、耳にできる扁平上皮癌は発生率を下げることができる癌です。
この腫瘍は紫外線が発生に関係しており、被毛の色が白い犬に発生しやすくなります。
被毛の白い犬は特に、紫外線をできるだけ浴びないようにすることが大切です。
犬の耳介には耳介軟骨があります。
耳血腫は何らかの衝撃で耳介内の血管が切れてしまい、皮膚と軟骨の間に血液がたまってしまう病気です。
耳介の中に血液が溜まるため、耳介が風船のように膨らみます。
出血が多いと重みのために垂れてしまうこともあります。
耳血腫になる犬は外耳炎やアレルギーが併発していることが多く、耳を掻いたりこすりつけます。
症状が重くなると耳の痛みがひどくなり、触られることを嫌がるようになります。
耳介軟骨が変形して耳介がくしゃくしゃに縮みます。
耳血腫は耳へ強い刺激が加わることで、耳介内の血管が切れてしまい皮膚と耳介軟骨の間に血液が溜まる病気です。
外耳炎やアレルギー症状のために耳を痒がり、肢で激しく掻いたり、耳をこすりつけたりすることで耳介内の血管が切れてしまうと考えられています。
耳血腫の治療方法には内科療法と外科療法の2種類があり、内科療法から始めることがほとんどです。
内科療法はの場合は、耳介の膨らんだ部分に針を刺し血液を吸引した後に消炎剤の投与を行い、これを3~5回程度繰り返します。
治療方法の研究が進んでおり、血液を吸引せずインターフェロンを耳介の膨らみの中に投与する方法もあります。
この場合も、内服薬は必要です。
内科療法では改善が難しい場合は外科療法を行います。
耳介に血液が溜まらないように皮膚と耳介軟骨の隙間ができないように縫合するなど、様々な治療方法があります。
耳血腫の原因は耳に対する強い衝撃です。
外耳炎やアレルギーの痒さから、耳を激しく掻くことが耳血腫を起こす原因のトップです。
耳のチェックをこまめに行い、外耳炎を悪化させないようにしましょう。
耳の病気はすべての犬種で起こりますが、なりやすい犬種がいます。
以上の犬種は、外耳炎を代表とする耳の病気になりやすいので、耳のチェックをしっかり行い定期的に動物病院で診てもらいましょう。
耳のお手入れをしましょう!と言われても、実際どのようなやり方でどこまでやれば良いのでしょうか。
耳そうじをするときに綿棒を思い浮かべる方が多いと思いますが、人が使う綿棒は綿がしっかり巻いてあるため、犬の耳には硬すぎます。
硬い綿棒で耳を掃除すると皮膚に傷ができたり、炎症を起こし、外耳炎がひどくなる可能性があります。
頑張って奥まで掃除しようとしなくても、耳には自浄機能があり、耳垢は外へ排泄されます。
耳の奥深くまで無理をして耳垢を取ろうとすると、かえって耳垢を奥に押し込んでしまいます。
耳の奥には自浄作用がないので、耳垢が奥につまり耳トラブルがひどくなることもあります。
普段のお手入れは耳の入り口付近をコットンやティッシュペーパーで拭く程度にしておきましょう。
犬がなりやすい耳の病気やケア方法を紹介しました。
動物病院への通院理由でも上位に入る耳のトラブル。
痒みが強い外耳炎や耳ダニなどの寄生虫、手術が必要になる腫瘍や痒みが原因で起こる耳血腫。
悪化してしまうと通院回数も増え、犬もつらい思いをします。
こまめに耳のチェックして、臭いがきつい、耳垢が多いと感じたら早めに動物病院を受診しましょう。
執筆・監修:獣医師 平松育子(ひらまつ いくこ)
山口大学農学部獣医学科(現:山口大学共同獣医学部)卒業後、複数の動物病院で勤務医を経て、ふくふく動物病院を開業する。
また、YICビジネスアート専門学校ペット総合科で講師を務める。
その他、AIAJ認定アロマテラピーインストラクターとして、人とペットが楽しめるアロマテラピーにも取り組む。
飼い主様としっかりコミュニケーションを取ることを大切にし、飼い主様とペットの笑顔に繋がる診療を心がけている。
公開日 : 2020/04/15