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モズ(学名:「Lanius bucephalus」)とは、スズメ目モズ科モズ属の小さな野鳥です。
漢字では「百舌」「百舌鳥」「鵙」と表記されます。
森林や農耕地、河畔林、草原が点在する林の周辺などに生息しています。
大阪府 の府の鳥、また堺市の市の 鳥 に指定されていることでも有名です。
小柄ながらも肉食性で、食べ物は昆虫を主としていますが、両生類である カエル や哺乳類であるネズミなども捕食します。
さらにタカのように気性が荒い性格であることから、「モズタカ」、「タカモズ」と呼ぶ地域もあります。
秋頃には、長い尾っぽを振りつつ鋭い声で「高鳴き」をする他、「はやにえ(早贄)」と呼ばれる、獲物を木の枝などに突き刺す・挟むといった特異な行動をすることで知られています。
モズ属の小鳥全般を指すこともあれば、限定された1種を示す場合もありますが、いずれにしても性格や習慣はほぼ似ています。
一口にモズと言っても、約70以上もの種類が存在しています。
日本では、オス・メスともに体の色が白・黒・灰色・茶色といったベーシックカラーを基調とした種類のものが最も多く見られます。
また、黄色・紅色・緑色といった鮮やかなカラーが美しい種類もいます。
頭の形がスズメのように丸く、全長は約20cmと小さな体でありながらも肉食性で、獲物を捕らえやすいよう、タカのように鋭い鉤(かぎ)状のクチバシを持っています。
モズは基本的に、アジア大陸東部の温帯地方に分布しており、中国東〜南部、朝鮮半島、ロシア南東部、サハリン南部などに生息しています。
日本でも全国的にモズが居住しており、主にモズ・アカモズ・チゴモズ・オオモズの4種類を見ることができます。
アカモズやチゴモズは夏に、オオモズは冬に日本に渡来してきます。
なお、アジア大陸の東部に生息しているオオカラモズという種類が、まれに冬場になると迷い込んでくることもあるようです。
一年中同じ地で過ごすモズもたくさんいますが、北部に生息する個体群であれば秋〜冬に南下し、山地に住むモズの場合は標高が低い地へ移動して、越冬します。
このため、北海道や本州北部では冬にモズに出会う機会が少ないので「夏鳥」とも呼んでいます。
モズの巣は、林の低木の中などを中心に、枯れ草や小枝、羽毛といった素材を使用して、カップ状に作られます。
基本は一夫一妻で、抱卵するのはメスのみであり、一度に4、5つの卵を産む個体が多いようです。
モズは、冬場は集団生活ではなく、縄張りで単独で過ごし、2月になると一斉に結婚・子育てを開始します。
抱卵期間は2週間前後で、 カッコウ に托卵されてしまうこともあります。
しかし、カッコウの托卵がうまくいくとは限りません。
托卵がバレてしまったカッコウの卵やヒナは、モズに追い出されたり殺されたりしてしまうリスクがあるため、カッコウとしても運任せで托卵していると言えるでしょう。
外敵には厳しいモズではありますが、ヒナが孵化してから2週間程度、オス・メスともに給餌を行い、愛情を持って子供のモズを育てます。
4月の初旬〜5月頃には、成長したヒナ達が巣立っていきます。
夏になると避暑地へ赴きますが、秋には元々いた生息地へと戻ってきて、冬眠に入る前のカエルや昆虫といった獲物を捕え、木などに刺す「はやにえ(早贄・速贄)」と呼ばれるモズ特有の行動が見られます。
モズの名前の由来については明確ではありませんが、「モズ」という音は、「モ」=鳴き声、「ズ」=カラスや ウグイス のような鳥、という意味であったという話が最も有力とされています。
なお漢字表記も複数のパターンがありますが、「鵙」については、「貝」の部分が「犬」の「目」を表しており、目をキョロキョロとまるで犬のように動かすことからこのような漢字が当てられた、と言われています。
また「百舌」「百舌鳥」という漢字については、モノマネ上手のモズの特徴によるものと思われます。
モズは早春や初秋に、 メジロ ・ウグイス・コジュケイ・ ホオジロ などの鳥の鳴き声の真似をする習性があります。
多様な声でさえずることから、「百の舌を持った鳥」と書かれるようになったと考えるのが自然でしょう。
ちなみにモノマネが得意なのは、オスのモズです。
オスの鳴き真似のバリエーションは、育ってきた環境の中で聞いて覚えた音である可能性が高く、経験豊富なオスほど色々な声を出せると思われます。
そのため、メスのモズはより多くの種類の鳴き真似ができるオスを好むと言われています。
2月に入る頃、モズは恋の季節を迎えます。
無事に冬を乗り越えたメスのモズは、暖かくなってくると自分の縄張りを捨てて、オスのテリトリーを訪ねます。
オスのモズは、自分の縄張りに入ってきたメスのモズへ、ヒバリやシジュウカラなどのさまざまな鳥の声でさえずりながら、求愛のための唄やダンスを披露し、給餌を行います。
なお、モズの鳴き真似のレパートリーの中には、モズより弱いはずのメジロなどの声が多く含まれています。
結婚シーズンの初春だけではなく、秋にも鳴き真似をしていることから、越冬前に弱い鳥のモノマネをして、獲物をおびき寄せているという説も提唱されています。
そんなモズには、オス・メスともに「高鳴き」と言われる習慣があり、秋になると「キーキー」「キチキチ」「ジュンジュン」「ギョンギョン」と、甲高い声で鳴きます。
特に秋のよく晴れた日に行うことがほとんどで、メジロやウグイスといった他の鳥の鳴き真似もします。
この高鳴きは、縄張り宣言をするための行為と考えられています。
縄張りを確保したモズは、家族と一緒ではなく、たった1羽で冬を過ごさなくてはいけません。
肉食性であるモズは、結婚の季節である2月になるまで、他者に邪魔されないよう自分の縄張りを守り続けます。
爪が鋭いモズは、他のモズと喧嘩をすると大ケガをしてしまう危険があります。
そのため、高鳴きによって強さを誇示し、他のモズとの争いを避けているのでしょう。
ちなみに地域によっては「モズの高鳴き75日」と言って、モズが高鳴きを始めると75日で霜が降ると予測している農家もあるようです。
モズは、昔から冬の到来を人々に伝えてくれる、生活に密着した鳥だったことがわかりますね。
ところで先述したように、モズには「はやにえ(早贄・速贄)」という特殊な習性があります。
話題になったドラマ『MOZU』で、関心を持った方もいらっしゃるでしょう。
モズには、越冬前に捕えた獲物を、小枝などに串刺しにしたり引っ掛けたりして放置していくという不思議な習性があります。
この習性を一般的には「モズのはやにえ」と呼んでおり、また「モズのはりつけ」「モズのくさぐき」と表現される場合もあります。
「はやにえ」とは、端的に言うと「いけにえ(生贄)」のことです。
生きたまま串刺しにされてしまった獲物が、モズにすべて食べられることがほぼないことから、このような呼び名が付いたと考えられます。
こういった残酷とも思われる習慣があることから、イギリスではモズのことを「屠殺人の鳥」と称することもあり、またドイツでは愛らしい容姿も形容して「絞め殺す天使」と呼んでいるようです。
はやにえにされる獲物は主に、コガネムシ・アオムシなどの昆虫や、カエル、 トカゲ 、ネズミ、小魚、小鳥などです。
はやにえの一部は食された形跡が残っていることもありますが、干物状態になって放置されていることがほとんどです。
このモズのはやにえは春〜秋に見られますが、どこの地方であっても特に多いのは秋〜初冬です。
木の枝やトゲに串刺しになっている他、自然に垂れていたツルで巻きつけてきれいに固定されていることもあります。
非常に小さな虫から、モズよりも少し大きな哺乳類や爬虫類まで、もとの形を崩さず突き刺してあることから、モズは巧みな技術を有していることがうかがえます。
さて、このミステリアスなモズのはやにえについて、理由がとても気になるところですよね。
しかし、実はモズがはやにえを行う理由はまだはっきりとは解明されておらず、複数の説が存在します。
まずは、「冬を越すための備蓄」という説がありますが、それにしては食べ残されている獲物があまりにも多く、最有力とは思えません。
そもそも年中温暖な地域であれば、冬場であっても獲物が常にいる状態であるため、わざわざ食料を蓄えておく必要はありません。
さらに雪国に生息しているモズの場合は、冬が訪れるとはやにえを残したまま、暖かい地方へと移動します。
また、本来モズ類には獲物を小枝などに突き刺してから食べる習性があるので、「食べ切れずに残した」可能性もあります。
成長したヒナが、すでに干からびたエサを後からついばむこともあります。
「足で獲物を押さえつける力がないため、食べやすいように串刺しにしている」という仮説もありますが、一口サイズの小さな虫をはやにえにしていることもあり、食べ残しにしては獲物の数も多すぎます。
一方、親から餌付けされたはずのモズがはやにえをする場面も目撃されており、「狩りの練習」という見解もあります。
あるいは、「越冬時の縄張りの境界線のアピールではないか」という説もあります。
その他には、肉食動物に時々見られる、「殺戮の本能による行動」という可能性も考えられます。
猫 などにも多い、食べもしない虫やネズミを狩る行為と同様で、動いている生物を見ると反射的に捕えているのかもしれません。
結局のところ、モズの気持ちは人間にはわからずじまいで、シンプルに「本能によるもの」という見方が主流となっています。
ちなみに、モズのはやにえの位置によって冬の積雪量を占える、という面白い風説もあります。
もし、はやにえを越冬前の貯蔵のために行っているのであれば、積雪量を感知したモズ達が、本能的に雪に隠れない場所にはやにえを設置しているかもしれない、ということです。
はやにえの位置が高ければ、今後の積雪量の多さに警戒して準備ができるというわけですね。
モズのはやにえの理由はいまだ謎のままではありますが、野鳥であるからこそ、人々に冬季のお知らせをしてくれていると考えると、何だかありがたく思えますよね。
このように魅惑的なモズを、「飼育してみたい」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、昔から肉食の野鳥として生息し続けているモズを、ペットとして飼うことはできません。
そうとは言え、野生のモズを保護する場面に遭遇することもあるでしょう。
そのような時は、以下のことを参考にしてください。
もしも道に落ちているモズを見つけたら、まずは外敵や車が来ないような安全な場所へ移し、様子を見てあげましょう。
巣から落ちてしまった可能性もありますし、野生の動物は基本的に、自然に回復する生命力を持っています。
人に拾われたことによって、驚きのあまり死んでしまうこともあり得るほか、野生として生きていく能力を失ってしまう危険性が高いため、できるだけ助けずに見守ってあげることも大切です。
野鳥はたとえヒナであっても、天敵に狙われないよう、めったに弱みを見せることはありません。
もし見るからに弱っているモズを発見したら、死に直面している可能性が非常に高いです。
明らかにケガをしているモズや、意識不明の状態のモズを見つけたときは、迷わず保護する必要があります。
モズを保護する際には、羽をたたんだ状態で入る大きさの紙箱にそっと入れてあげましょう。
大きいサイズの箱や鳥カゴの使用は避けてください。ビックリして暴れたときに、より体力を消耗したりキズが広がったりしてしまう可能性があります。
紙箱には、通気できる小さい穴を事前に開けておきます。
外が見えると、逃げようとジタバタしてしまうので、モズの目よりも低くなる位置に小さい穴を作るようにしてください。
また、できる限り25〜30℃位に保温してあげましょう。
意識がない場合はなるべく動かさないように心がけ、決して水を飲ませてはいけません。
気管の中に水が入ると死に至る危険性があるので、クチバシから水を流し込む行為は控えましょう。
野鳥は国から守られているので、病気やケガで弱ったモズがいたら、すぐに都道府県や市区町村の保護担当の窓口に問い合わせることをおすすめします。
診察が必要であれば、自治体が指定する動物病院(救護ドクター)や保護センターを教えてくれるはずです。
時間外・休日などで対応してもらえない場合には、近所の動物病院や動物園に救護相談をしてみましょう。
無事に治療を受けた野鳥は、リハビリ後に放鳥するか、自然にかえすことが難しいと判断された場合は、知事の許可を得て保護者やボランティアが飼育することになるケースもあります。
ただし保護した野鳥は、特にヒナの場合は生存率は低く、救出するだけでも労力を要しますし、助かったとしても、人に慣れてしまうと野鳥として生きていくことはできません。
保護施設もたいていの場合はボランティアによって運営されているため、受け入れられる数も限られています。
必ずしも助けてあげられるわけではないということも、悲しいですが覚悟しておく必要があります。
繊細な野鳥でありながらも、凶暴な一面を持つモズは、実は江戸時代には「モズが鳴く夜は死人が出る」とさえ信じられていたほどの凶鳥でした。
その一方で、鳴き真似上手・高鳴き・はやにえといった多様な特徴があるモズは、秋の季語の代表格として、多くの歌人に詠まれてきた鳥でもあります。
中でも有名なのは、以下の3人の俳人による俳句です。
「草茎を 失ふ百舌鳥の 高音かな」与謝蕪村
「鵙なくや むら雨かわく うしろ道」小林一茶
「朝鵙に 掃除夕鵙に 掃除かな」高浜虚子
有名な俳句にも歌われ、古くから親しまれ続けてきた野鳥・モズ。
この先も毎年、秋や冬の到来を、私達に知らせてくれることでしょう。
美しい外見と、不可思議な性質を兼ね備えたモズの姿を、これからもぜひ見守り続けていきたいですね。
公開日 : 2017/11/01