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肛門腺とは、肛門腺液(肛門嚢液)と呼ばれるとても臭い分泌物を作り出す器官です。
この分泌物は犬や猫にとって「私はこういう者です!」という名刺のような役割を果たしているので、彼らにとっては大事な情報源でありコミュニケーションツールです。
よく犬猫がお尻の臭いを確認して挨拶をしているような様子が見られますが、あれは肛門腺液の臭いを確認しているのです。
肛門腺で作られた肛門腺液は、肛門嚢(のう)と呼ばれる犬猫の肛門の左右に一対ある袋の中に貯められます。
通常、肛門腺液はうんちをする時に一緒に押し出されて出ることが多いのですが、中には上手に出せない子もいるため、その場合は定期的に人間が絞ってあげる必要があります。
また、驚いた時や恐怖を感じた時に、ピュッと自然に漏れてしまうこともあります。
肛門嚢の中の分泌物を絞って出してあげることを一般的に 「肛門腺絞り」 や 「お尻絞り」 といい、 「肛門腺」 というと本来の名称とは異なりますが、動物病院やトリミングサロンでは肛門腺液を指すことが多いと思います。
見たことのない方にとっては、「もしかしたらこれが肛門腺液なのかな?」と思うことはあっても、実際どのような物かイメージするのは難しいと思います。
ここでは、臭いや色、性状を詳しく説明しますのでぜひ参考にしてみてください。
肛門腺液はとても生臭いです。
するめの臭いを濃くしたもの と表現されることが多いですが、人によっては 鉄くさいような臭い と言う人もいます。
いずれにせよ、うんちとは違う種類の強い臭いなので、一度嗅げば忘れることはないでしょう。
ちなみに、服や皮膚につくとしばらく強烈な臭いや色が取れないので、絞る際には飛び散らないよう細心の注意を払って行いましょう。
肛門腺液の色は個性差があります。
一般的に多く見かけるのは チョコレートを溶かしたような濃い茶色 、 透明がかったうすい茶色 ですが、中には 灰色 や 緑っぽい色 の子もいます。
肛門腺液は サラサラした液体状 から、 どろっとした液体状 、 クリーム状 、 固いクリーム状 、中には 粒々したものが液体に混じっている 子もいます。
筆者の経験上、シニアになってくると若い時はサラサラしていた子もどろどろしてきたり、固いクリーム状になり絞りにくくなる印象があります。
なお、肛門腺液の臭い、色、性状は本人の体調によって変化することがあるので、血が混じっていたりいつもと違う膿みのような臭いがする場合は、肛門嚢が病気になっている可能性もあります。
気になる方は動物病院の受診を検討してください。
肛門腺を絞らなくても自分で排出できている子は、絞ってあげなくても特に問題はありませんが、自分でうまく排出できない子は人が絞ってあげないといけません。
肛門腺液を排出できないまま放置していると、貯まりすぎた肛門腺液が変性することで肛門嚢が炎症を起こす 肛門嚢炎 という病気を起こしたり、肛門腺内に分泌物が貯まりすぎて肛門腺が破裂してしまう 肛門嚢破裂 が生じる可能性があります。
また、肛門嚢炎から肛門嚢破裂に進行することもあります。
肛門嚢炎の場合は肛門嚢がある部分のお尻の皮膚が赤く腫れてしまったり、お尻を前歯でカジカジかじったり、床にお尻を擦りつけながら歩くような仕草が見られることがあります。
細菌感染が併発すると、膿みのような肛門腺液が確認されることもあります。
肛門嚢破裂の場合はお尻の周りが出血や分泌物で汚れていたり、飼い主さんによっては「お尻の穴が二つになってしまった!」というような表現をされるように、肛門嚢のある場所の皮膚に大きな穴が開いてしまうこともあります。
強い痛みを感じることも多いので、お尻を触ろうとすると怒る子もいるほどです。
肛門嚢炎の場合は感染があれば抗生剤、症状によっては抗炎症薬の使用を検討します。
肛門嚢破裂を起こしている場合は抗生剤の使用と破裂している肛門のうの洗浄や消毒を行いますが、この治療はかなり痛みを伴うため、破裂をしないように定期的に絞ってあげたり、お尻を気にするような仕草が見られる場合には絞ることを検討しましょう。
肛門嚢のトラブルを繰り返す子は、肛門嚢を取り除く手術が必要になることもあるので、気になる方はかかりつけ医に相談してみてください。
お尻を床に擦りつけて歩くような仕草をする 、 お尻を頻繁になめる 、 前歯でカジカジしている 等を見かける場合は、お尻に違和感を感じているサインですので、お尻を確認したり肛門腺絞りを行うことを検討しましょう。
動物病院やトリミングサロンで肛門腺絞りを行った後にこのような仕草が見られる場合は、絞ったことが刺激になり、一時的に気にしていることもあります。
少し様子を見て続く場合には、お尻周りに炎症を起こしている可能性もあるため、動物病院の受診がおすすめです。
月に1度 絞る程度で管理できる子が多いですが、中にはとても貯まりやすい子もいて、2週間に1度ほど肛門腺絞りに通院する子もいるので、お尻を気にしている場合は肛門嚢を確認してみましょう。
チワワ 、 トイプードル 、 ミニチュアダックスフンド 等の 小型犬 、 コーギー のようにしっぽを短く切っている犬種 では、 お尻の筋肉が弱い ため自力で排出することが難しく貯まりやすいと言われています。
また、若い頃は自力で出せていたのに、 シニア になりお尻の筋肉が弱ってしまったり、 肛門腺液が固く変化 してしまうことで、貯まりやすくなってしまう場合もあります。
その時は飼い主さんが溜まっていることに気付きにくく、肛門嚢が破裂してから気付かれるケースも多いので、シニアの子でお尻を気にする仕草が見られる場合は注意が必要です。
その他にも 下痢 や アレルギー 症状等で肛門周りの皮膚に炎症を起こしている時、 脂漏症 (皮膚や被毛が脂っぽくべたつく)の基礎疾患がある子、 肥満 の子は出にくくなってしまうこともあります。
一般的には500円~1,000円ほどで行っている動物病院が多いです。
ただし、コーギーのようにしっぽを短く切っている犬種、 フレンチブルドッグ のようにしっぽがクルンと短く丸まっている犬種、すごく肛門腺液が固くなってしまっている子では、お尻の外側を押して肛門腺を絞ることが難しい場合があるので、肛門内に指を入れて直腸とお尻のお肉ごしに肛門嚢を指で挟みこんで搾り出すことがあります。
その場合は専門的な手技になるので、少しお値段を高く設定している場合もあります。
トリミングサロンではあらかじめ肛門腺絞りがシャンプーとセットになっている場合と、オプションで選択するなどサロンによって様々なので、予約の際に確認してみてください。
肛門腺を絞るのは慣れないと難しいですが、一度絞れるようになれば自宅で簡単に行うことができ、飼い主さんの負担も動物の負担も減らすことができるので、ぜひ挑戦してみましょう。
まずは一般的な肛門腺絞りの方法を説明します。
しっぽをあげるほど肛門嚢が触りやすくなるので絞りやすくなりますが、強く持ち上げすぎると痛めてしまう可能性もあるため、様子を見ながら優しく持ち上げましょう。
また、しっぽを持ち上げると激しい痛みを感じる病気もあるので、あまりにも痛がる場合はかかりつけ医に相談してください。
肛門嚢は肛門を中心として4時と8時の方向にありますので、その辺りを触って探してみてください。
溜まっている場合はしっかりと丸く確認できますが、あまり溜まっていない時は確認できないこともあります。
その際は、大体の目安で指を置く位置を決めましょう。
歯磨き粉のチューブを絞るようなイメージで行います。
力を入れすぎると痛みが出たり、飛び散ることがあるため、少しずつ力を入れていきましょう。
手に付かないようティッシュごしに絞るのがおすすめです。
肛門線液はとても臭いが強いので、水で拭く程度ではなかなか臭いが取れません。
お尻だけシャンプーしてしまうのが一番消臭効果が高いですが、難しい場合は市販されている犬猫の口に入っても無害(肛門線絞りの後はお尻を気にして舐める子も多い)で体に使用できる消臭剤を使用しましょう。
コツを抑えると飼い主さんでも上手に絞ることができます。
上手く絞れないという方はぜひ参考にしてください。
肛門嚢は図のように肛門を中心として、時計の4時と8時の位置にある袋状の構造物です。
肛門を指で押し広げながら筋肉の部分に目を凝らすと、1mmほどの肛門腺液が排出される穴(図で肛門の下部、左右脇にある青い点)が確認できることもあります。
図のように袋の下から出口に向かって中味を出す事をイメージして絞りましょう。
肛門腺液の飛び散りを防ぐために、絞る際はティッシュごしに行うのがおすすめですが、最初はティッシュごしだと上手く絞れない人が多いです。
なかなか絞れない人は、お風呂場など飛び散っても掃除が楽な場所で、一度素手で位置を確認し絞ってみると感覚が掴めると思います。
丸いふくらみがあるのに押しても全然出てこない場合は、肛門腺液が固くて出にくくなっていることがあります。
その場合は、お風呂でシャワーやシャンプーを使用してマッサージしてあげると出やすくなるため試してみてください。
力任せに固い肛門腺を絞ると破裂してしまうこともあるので、難しい場合は動物病院で絞ってもらいましょう。
ある程度絞ったのに固いふくらみが残る時は、肛門嚢に腫瘍ができている可能性もあるため、その際はかかりつけ医の受診を検討してください。
しっぽを持ち上げると肛門嚢が触りやすくなるため、きちんとしっぽを持ち上げましょう。
ただし、前述の通り勢いよく持ち上げたりするのは危険なので、動物の様子を見ながら優しく身体と垂直になる位を目安に持ち上げてください。
持ち上げる際に強い痛みを感じている場合は、かかりつけ医に相談しましょう。
猫は犬に比べると肛門腺絞りが必要な子は経験上少ないイメージがありますが、猫も肛門腺液が貯まり過ぎると炎症や破裂を起こします。
中には月に一度ほど肛門腺絞りに通院している子もいるので、溜まっているような仕草が見られたり、ぷ~んと生臭い臭いがお尻からしている場合は絞ってあげた方が良いでしょう。
絞り方は犬と同じなので、ご自宅でやられる方は前述の方法を参考に行ってみてください。
ただ、猫の方がお尻に敏感で逃げてしまうため、慣れないうちは誰かに支えてもらって絞ると上手に絞れるかもしれません。
肛門腺にまつわる多くの疑問について解説しました。
慣れてしまえば自宅でもケアできるので、今まで挑戦したことのない方は本記事を参考に行ってみてください。
なお、肛門腺が絞りにくい子の中には専門家ですら絞ることが難しい子もいますし、パンパンになって溜まっている子は力任せに絞ると破裂の原因にもなります。
どうしても難しい場合は無理せず、動物病院やトリミングサロンで絞ってもらいましょう。
執筆・監修:獣医師 にしかわ みわ
大学卒業後、一般小動物病院にて臨床獣医師として勤務、一次診療業務に携わる。
その後、都内大学付属動物病院にて研修獣医師として勤務、高次診療業務に携わる。
再び各地の一般小動物病院に勤務する傍ら、電話における動物健康相談業務にも従事。
海外にて動物福祉を勉強するため、2019年に欧米諸国へ留学。
現在は留学や臨床業務の経験を活かし、動物の健康や各国の動物福祉に関する記事の執筆業務を行う。
最終更新日 : 2021/05/31
公開日 : 2020/03/26