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犬はシンプルな食パンやフランスパンであれば少量食べても問題ありませんが、菓子パンやお惣菜パン、バターがたっぷりと練りこんであるパンなどを食べると、下痢や吐き気を催すことがあります。
犬は甘みを感じる動物なので、パンの旨味や甘みに魅力を感じているのでしょう。
人の食べているパンを欲しがったり、少量のパンを貰うと喜んで食べる犬は多いですが、たくさん食べて良いという訳ではありません。
どのくらいの量のパンを与えても大丈夫かという正確なデータはありませんが、カロリー面から計算すると以下のように考えられます。
<6枚切り食パン>
1枚当たりのカロリー目安:160kcal
<体重5kgの犬>
1日に必要なカロリーの目安:350kcal
1日のオヤツのカロリーの目安:35kcal
1日に与えても良い食パンの目安:1/5枚
毎日のように食パンを食べると太ってしまうことが多いので、上記の量でも注意が必要です。
それでも愛犬が本当にパン好きで、頑張ったときのご褒美にはぴったりという時には、特別な日や動物病院でワクチンを打った後などに、一口程度のパンをあげるのは良いことだと思います。
筆者がよく診察で耳にするのは、お薬を飲ませるのにパンにくるんであげるという方法です。
毎日の投薬がある犬であれば、パンにくるむことでストレスなくお薬を飲めるというのはとても大切なことでしょう。
また、高齢犬で食欲が低下しているときに、補食として食パンがカロリー補給に役立つこともあります。
ただし、持病の種類によってはパンを毎日食べると病状が悪化することもあるので、必ずかかりつけの獣医師に"パンを与えても良いか"を確認しておきましょう。
犬が喜んで食べるからといって、人用のパンをたくさん与えるのは止めましょう。
なぜなら、以下のような困った事態になることがあるためです。
パンの主成分は炭水化物なので、人と同様に犬も食べ過ぎれば肥満に繋がります。
近年では超小型犬の飼育頭数が増えてきているのですが、中でも人気犬種のトイプードルやチワワなどは、好きなものしか食べない傾向にあります。
一度おいしいパンをあげたらそれを貰うまでは主食のドッグフードを食べなくなってしまうこともありますし、食欲が旺盛ではないにもかかわらず少量のパンによって太ってしまうこともあるので、パンの扱いにはくれぐれも注意してください。
持病として膵炎(すいえん)や外分泌不全(がいぶんぴつふぜん)のように消化器疾患がある場合には特に、低脂肪の食餌管理が推奨されるため、バターが多く練りこまれているパンを与えると下痢になる可能性が高くなります。
持病がなくても、食べ慣れないものを食べると下痢になるという繊細な腸をもっている犬では、パンであっても下痢のリスクが高いと言えるでしょう。
明らかな消化器疾患がない犬は少量のパンで下痢になるということはありませんが、市販のクリームパンや蒸しパンなどのように脂肪分や糖分がたくさん含まれているものを食べると、消化不良で吐き気や下痢を催すことがあります。
パンは塩分が多く含まれているので、毎日のように犬にあげていると塩分過多になります。
含まれる食塩の量にもよりますが、塩分過多は犬の高血圧や腎不全のリスクを高くします。
肥満になっている場合にはさらに高血圧のリスクが高くなるので注意が必要です。
犬も高血圧になると、心臓に負担がかかり腎不全が進行します。
日常的にパンをあげる習慣がついていて、肥満になっている犬であれば、高血圧になっていないかを動物病院で検査してもらった方が良いでしょう。
※参考:日本ペット栄養学会 (編). ペット栄養管理学テキストブック. アドスリー. 2014.
シンプルなパンであれば犬が中毒症状を起こす物質は入っていないので、大きな問題にはなりません。
ただ、以下に挙げるようなパンは犬の命に関わることがあります。
パンだから大丈夫と思わずに、犬にとっては危険なパンもあることを把握しておきましょう。
ぶどうが犬にとって危険な食材であるというのは段々と周知されてきているのですが、実は干しぶどうであるレーズンの方が毒性が強いということはあまり知られていないでしょう。
干しぶどうを食べた犬は急性腎不全の報告が多いため、少量でもレーズンパンや干しぶどうパンを与えてはいけません。
犬がぶどうを食べることによって起こる中毒症状には、以下のようなものがあります。
時には、ぶどうパンを食べてから数日経って症状が強く出るケースもあります。
甘みが強いことから、犬は喜んでぶどうパンを食べてしまうので要注意です。
※犬とぶどうの関連記事: 【獣医師監修】犬はぶどうを食べたら危険!その理由と食べてしまった際の対応について
犬にチョコレートを含んだパンを与えると、チョコレートに含まれるテオブロミンやカフェインがきっかけで中毒症状を起こすことがあります。
チョコレートを犬に与えてはいけないというのは広く知られた情報となっているので、チョコレートパンも犬に積極的に与える人はいないでしょう。
パンに含まれるチョコレートはカカオ成分が濃くないので、大量に食べなければ大きな問題にならないことが多いですが、「机の上においてあったチョコレートパンを丸ごと1つ犬が食べていた」というケースはよくあります。
チョコレートパンは、チョコレート成分が練りこんであるものやチョコレートクリームが入っているもの、チョコチップが入っているものなど様々なものがありますが、どれも脂肪分が多い傾向にあります。
犬によるチョコレートパンの盗食は、チョコレート中毒だけでなく脂肪分過多による消化不良の症状も出る可能性があり、以下のような症状が出ます。
本格的なテオブロミン中毒やカフェイン中毒の場合、痙攣(けいれん)などの神経症状が出ることがあるので、必ず病院に行くようにしましょう。
※犬とチョコレートの関連記事: 【獣医師監修】犬にチョコレートは危険!? 理由、症状、対処、治療法を解説
玉ねぎが犬にとって危険な食材というのは有名な話なので、あえて玉ねぎ入りのパンを与える飼い主さんはいないと思います。
怖いのは、サンドイッチのドレッシングなどの隠れた玉ねぎ成分や、スライスされた玉ねぎが入ったお惣菜パンです。
パンに入っている玉ねぎ成分は少量なので大丈夫なのでは?と聞かれれば、犬それぞれの感受性によって中毒が起きるかどうかが違うので、「一概に大丈夫とは言えない」という回答になります。
玉ねぎ成分によって犬に中毒が起きると、以下のような症状が出ます。
玉ねぎ成分で犬の赤血球が壊されると、重症なケースでは貧血が進んで輸血が必要になります。
※犬と玉ねぎの関連記事: 犬が食べると危険な食材の一つ「玉ねぎ」。その理由と食べてしまった場合の症状や対応について
犬がマカダミアナッツを食べると神経症状を起こすので、マカダミアナッツを含んだパンを与えるのは止めましょう。
マカダミアナッツの何が原因物質となっているのかは明確に分かっていないのですが、体重1kgあたり11.7gのマカダミアナッツを食べると、12時間以内に症状が出るという報告があります。
症状は以下のようなものがあります。
24時間以内に症状は無くなるようなのですが、まだ不明なことも多いので、犬にとってマカダミアナッツは怖い食材と言えます。
ナッツ入りのパンにマカダミアナッツが入っていることがあるので、与えないように気を付けてください。
※参考:S R Hansen 1, W B Buck, G Meerdink, S A Khan. Weakness, tremors, and depression associated with macadamia nuts in dogs. Vet Hum Toxicol. 2000.
自家製酵母でパンを焼いているというご家庭では、焼く前のパンを犬に食べられないように十分に注意する必要があります。
発酵した酵母がアルコールを合成しているので、加熱前のパンにはアルコール成分が含まれているためです。
犬はアルコール分解能力が人よりも弱いので、アルコール中毒の症状が出ることもあります。
胃内でパン生地が膨張すると、胃拡張の状態になることもあります。
パンだけでなく、ピザ生地でも犬に中毒症状が出たという報告もあるので、発酵させている食品には気を付けましょう。
生のパン生地を食べてしまった犬に見られる症状は、以下のようなものがあります。
冬場にはコタツの中でパン生地を発酵させる方もいるようで、犬にそれを食べられてしまったというケースもあります。
危険なので、パン生地の発酵は犬に食べられない所で行うようにしてください。
※参考:Cristina Cortinovis1 and Francesca Caloni. Household Food Items Toxic to Dogs and Cats. Front Vet Sci. 2016.
中には普通のパンを食べても体調を崩す犬がいます。
それは、パンの材料にアレルギー反応を起こしているせいかもしれません。
アレルギー反応が出やすいパンの原材料は大きく2つで、小麦粉と卵です。
アレルギーはタンパク質に対して起きやすいので、小麦粉のグルテンや卵のタンパク質成分に反応する犬が稀にいます。
犬の食物アレルギーは、早いケースでは生後半年あたりからひどくなります。
もしパンを食べた後に口の周りが赤くなってとても痒そうにする、便がゆるくなる、お尻を痒がるなどの症状が出ていれば、アレルギー反応を疑いましょう。
これは体質によるものなので、たくさんパンを食べたからアレルギー反応が出るということではありません。
少量のパンを食べても、アレルギー体質の犬は症状が出ます。
元々アレルギー体質だとわかっている場合には、パンを与える時もごく少量にして、その後に体調の変化が起きないようにしっかりと観察してください。
パンを食べて体調を崩す犬は少ないものの、クリームなどの大量の脂肪分を含んでいたり、中毒成分を含むパンを多く食べてしまった場合には、体調を崩して病院に行かなくてはいけないケースもあります。
大抵の症状は吐き気や下痢、食欲不振ですが、アレルギーがある場合は皮膚の痒みなどに対する治療が必要となります。
まずは身体検査を行い、発熱がないか、お腹はゴロゴロ鳴っていないか、痛くないかを確認します。
症状によって検査の内容は異なりますが、胃腸にどれくらいの負担がかかっているのかを判断するために、血液検査を実施することもあるでしょう。
大切なのは、本当にパンが原因で症状が出ているのか、他の原因が隠れていないかを確認しておくことです。
レントゲン撮影をしてお腹の中に異物が入っていないかを確認したり、エコー検査で胃腸の動きや異物の有無、粘膜の腫れなどを見ることもあります。
パンを食べることによって出る症状は軽度であることが多いので、1回の吐き気や下痢など軽度な症状であれば、胃腸炎の治療が開始されることがほとんどです。
吐気を抑える治療や、整腸剤、治療食が出ることが多いですね。
もし食欲が無くて、飲み薬が難しい時には、皮下点滴や注射でお薬を投与します。
皮膚に痒みが出ている時には、抗アレルギー薬を投与して痒みや赤みを抑えます。
中毒成分を含むパンによって体調を崩している時には、重症になることもあるので、中毒成分それぞれに対応した治療が開始されます。
パンだけであれば犬が食べても問題にならないことがほとんどで、ご褒美や投薬の手助けとしてとても役立ちます。
ただし、人用の加工食品はどうしても犬にとってはカロリーと塩分が多すぎる傾向にあるので、与え過ぎれば犬の健康を損ないます。
犬がパンを食べて体調を崩してしまった時には、動物病院で検査や治療が必要になることがあります。
中毒成分や過度の脂肪分が原因であれば重症になることがあるので、治療も時間もかかってしまうでしょう。
中には危険なパンもあるということを把握し、安全に愛犬とパンのおいしさを楽しんでください。
執筆・監修:獣医師 山口 明日香(やまぐち あすか)
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科卒後、2つの動物病院に勤務し、現在も臨床獣医師として働く。
ワークライフバランスを整えるため、在宅でのLINEおよび電話による健康相談、しつけ相談も開始。
その過程で、病気のみならず各種トレーニングと問題行動の大変さ、大切さを知る。
今後は学校飼育動物学で学んだ動物飼育と、子供の情緒の発達についても発信し、獣医動物行動研究会において問題行動の知識を深め、捨てられる動物が減るように正しい情報を伝えるべく模索中。
最終更新日 : 2023/03/17
公開日 : 2023/03/17