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避妊手術とは、 女の子の生殖器を取り除く手術 で、卵巣と子宮を両方とも取り除くか、卵巣のみを取り除くことを指します。
どちらの方法でも生殖能力はなくなるので妊娠・発情することはできなくなりますし、子宮も併せて取り除いている場合は子宮の病気も予防することが出来ます。
日本ではおへその少し下辺りを切って、お腹を切り開き臓器を摘出します。
手術の傷の大きさは獣医さんそれぞれの考え方もありますし、年齢、妊娠・発情の有無、体格など動物の状態によっても変わります。
大きく開ける方が視野が確保しやすく、安全性が高いので、猫の体への負担を減らすことができるという意見のある獣医さんもいます。
健康な体にメスを入れるので、手術をするべきか悩む飼い主さんも少なくはありません。
手術にはメリット・デメリットがありますので、それを踏まえて自身や愛猫にとってどちらが良いのかを検討してみましょう。
避妊手術には多くのメリットがあります。
猫は成長が早い子で生後4ヶ月位から妊娠が可能になります。
人とは生殖のシステムが異なるため、 交尾したらほぼ100%妊娠 しますし、1回の出産で何匹もの仔猫を産みます。
また、離乳すると母猫はすぐに次の妊娠が可能になり、栄養状態が良ければ1年に2〜4回も出産する可能性があるのです。
理論上では、なんと1匹のメスは 1年で20匹以上の仔猫を産むことができる のです。
平成30年度日本では30,757匹の猫の殺処分が行われており、その中でも大きな割合を占めているのが離乳前の仔猫たち。
また、保健所に持ち込まれる猫の約60%が飼い主不明の仔猫です。
かわいそうな仔猫を増やさないために、特に屋外にアクセスできる形で飼育している方は、飼い主の責任を果たすという意味でも避妊手術を行うようにしましょう。
女の子の猫にも発情はありますので、外にいる猫が発情して大きく鳴くと屋内にいてもつられて鳴くことがありますが、自発的に興奮して鳴きだすこともあります。
発情期の鳴き声は普段の可愛らしい声とは異なり、かなり大きな声で鳴き続けます。
また、発情期では女の子でもマーキングといった自分のニオイをつけるためにおしっこを様々な場所でしてしまうことがあります。
猫にとっては正常な行動でも、人間と暮らす上では困るこのような行動を予防する効果が期待できます。
なお、交尾が出来ないのに発情がくることは猫にとってはとてつもないストレスなので、それを取り除いてあげるという大きなメリットもあるのです。
発情すると、どうしても興奮して外出への欲求がたかまったり、ケンカが増えてしまいます。
避妊手術を行うことで発情がなくなりますので、脱走やケンカの抑止効果が期待できます。
猫エイズや白血病などの感染症は生殖行為やケンカによって感染する可能性が高いので、避妊手術を行うことで感染リスクを下げることができます。
生殖器に関連した病気の中には命に関わるものがあります。
特に猫の乳腺腫瘍は悪性度が高く、猫の乳腺のしこりの約80%は乳がんといわれており、転移する可能性も高い恐ろしい腫瘍です。
ホルモンバランスに関係して発生することが知られているので、早めの避妊手術で発生率を下げられます。
生後6ヶ月以前に避妊手術をすると、乳腺腫瘍の発生率を90%以上低下させることができ、年齢が上がるほど避妊手術をしても乳腺腫瘍の発生率を低下させる効果は低くなり、2歳を超えるとその効果はなくなるとまでいわれます。
他にも、子宮蓄膿症や子宮、卵巣の腫瘍など避妊手術を行うことで予防できる病気はたくさんあるのです。
実は子宮蓄膿症は、発見時にはすでに全身の状態が悪くなっていることが多いです。
基本的に治療方法は手術で子宮を摘出することなので、状態が悪い中での全身麻酔はリスクが高く、命がけの治療になってしまうこともあります。
避妊手術を行うことで、 太りやすくなってしまうこと が大きなデメリットといえるでしょう。
生殖器が無くなることで、消費エネルギー量が低下します。
しかし、逆にホルモンバランスが変化する関係で食欲はアップしてしまうのです。
猫の肥満は糖尿病や、膵炎、関節炎、肝リピドーシスなど様々な病気の発生率を高めることが知られていますので、避妊手術後は肥満にならないよう注意する必要があります。
もう1つのデメリットとしては 全身麻酔をかけるリスク です。
健康な子で麻酔に関連した致死率は0.11%という報告があります。
健康な子の場合、病気にかかっている子よりも麻酔リスクはとても低く、安全性はかなり高いといえるでしょう。
ただし、100%安全な麻酔というものはこの世に存在しませんので、メリットとデメリットを考えて手術を検討してください。
日本では一般的に生後5〜6ヶ月ほどで行われることが多いのですが、海外ではより早期の生後4ヶ月から行うところも増えてきています。
早期に行うことで、確実に発情がくる前に避妊手術をすることができるため、避妊手術のメリットをしっかり活かすことができるのです。
動物福祉先進国のイギリスの獣医師会では、 飼い猫に関しては生後4ヶ月での手術を推奨 しています。
保護猫に関しては動物福祉の観点から譲渡する前に行うことを推奨しており、生後8週以降から行うこともあるそうです。
RSPCAというイギリスで最も影響力のある動物福祉団体によると、以下の理由から早期避妊手術を推奨しています。
発情が4ヶ月ほどできてしまう可能性もあるため、避妊去勢手術が済んでいない仔猫を雄雌で飼っている方は、早めに避妊手術を検討することをおすすめします。
まずはかかりつけの動物病院に相談してみましょう。
それでは、避妊手術をしよう!と決めた場合、どのようにしていけばいいのでしょうか。
ここでは一般的な手術の流れの一例を紹介します。
まずは、動物病院を受診し体調や体格の評価を受け、手術の予約をしましょう。
何か避妊手術について不安なことがある場合は、ここで全て質問をしておくといいと思います。
手術では全身麻酔をかけるため、避妊手術当日の朝ごはんは抜きます。
うっかり食べてしまうと手術ができなくなることもあるので注意してください。
午前中に病院に連れていき、お昼の時間帯に手術をします。
女の子の場合はお腹を開けているので、1泊入院して翌日朝お迎えになることがほとんどですが、猫の性格や飼育環境によっては、夕方にお返しして自宅で様子を見てもらうこともあります。
手術後は感染予防のために自宅で抗生剤の内服を行うこともありますが、長期間効果が持続する抗生剤の注射を手術時に打っている場合は、自宅で投薬の指示がでないこともあります。
術後は傷を多い隠せる術後服(エリザベスウェア)や、傷をなめないように エリザベスカラー を抜糸まで装着します。
傷の治り具合にもよりますが、特にお家で問題がなければ術後1週間で傷のチェックのために受診し、傷の回復具合で術後10日〜2週間で抜糸となります。
抜糸後1日は違和感が残り、傷跡をなめてしまうことが多いので、エリザベスウェアやエリザベスカラーは付けておきましょう。
以上の一例を参考にして、避妊手術に向けての準備をしてください。
平成27年度に日本獣医師会が行った調査によると、猫の避妊手術(卵巣子宮摘出)にかかる費用は、約70%の動物病院で15,000円から30,000円ほどです。
これは手術のみの費用なので、他にも麻酔料や入院費、術後のお薬代やエリザベスカラー代などがかかる場合もあります。
また、術前の血液検査も別料金となっています。
ただし、病院によっては以上の費用を全て含めた避妊手術プランを設定している所もあります。
価格は各病院によって異なりますので、手術を検討している病院に直接問い合わせてみるのもおすすめです。
なお、野良猫問題は日本各地で大きな問題になっているため、多くの自治体で避妊手術の助成金が設けられています。
まずはお住まいの地域の自治体に問い合わせてみましょう。
助成金の金額は各自治体によって異なりますが、数千円程度が多いです。
1世帯辺りの上限頭数が決まっている場合や、予算が終了してしまうと期間内でも打ち切りになることもありますし、飼い主のいない猫のみが対象となっている場合もあります。
まずは避妊手術を受ける時に自分が対象になるのかを確認してみましょう。
また、申請書の提出が必要になり、動物病院の記入欄もありますので、手術を受ける方で助成金の申請を検討している方は、動物病院にも事前に伝えるようにしてください。
自治体だけでなく、動物愛護団体でも独自に飼い主のいない猫に助成金制度を設けている所もありますので、周りに避妊去勢手術を行っていなさそうな猫がいる場合にはそのような制度を利用して避妊手術を検討してあげてください。
避妊手術後は、普段より気をつけて様子を見る事が必要です。
ただ、気にしすぎて飼い主さんの様子がいつもとかなり違っていたり必要以上になだめたりすると、それを感じ取って猫が不安になってしまうこともあります。
とっても心配ですが、愛猫の前では出来る限り普段どおりに振る舞うようにしましょう。
猫は傷口を自分でなめて傷つけてしまったり、抜糸をしてしまうこともありますので、傷をいじらないように気を付けて見ててあげましょう。
同居の猫がいる場合は、その子が傷をなめてしまう場合があります、
そのような危険がある場合には、抜糸までは隔離して生活させるようにしましょう。
普段と違うものを装着していると、上手にごはんやお水が飲めないことがあります。
いつものお皿に少し高さをつけてあげると食べやすくなるので、工夫してみましょう。
また、飼い主さんが着脱が出来る場合は、ごはんの間だけ外してあげることもできます。
手術後は動き辛くて水をあまり飲まない子もいるので、普段より飲んでいない様子ならごはんをウエットフードにしてあげると、ごはんと一緒に水分が取れるのでおすすめです。
エリザベスウェアやエリザベスカラーを装着していると、違和感で動きにくくなったり、トイレを我慢してしまうこともあるため、きちんと毎日おしっこやうんちが出ているか確認しましょう。
手術後は麻酔の影響や、ストレス、抗生剤がお腹に合わない(抗生剤の内服をしている場合)など、様々な原因で下痢をしやすくなっています。
猫の皮膚はデリケートなので、エリザベスウェアの脇や股の擦れるところ、エリザベスカラーのあたっている皮膚に傷がついてしまうこともあります。
装着している場合は毎日チェックしてあげましょう。
手術後はいつもより元気がない子も多いです。
あまりにも、普段より元気がない場合は痛みを強く感じている可能性もあり、その場合は痛み止めが追加処方されることもありますので、手術を受けた動物病院に相談してみましょう。
抜糸が終了したら、普段の生活に戻ることが出来ます。
前述の通り以前より太りやすくなっていますので、徐々にカロリー控えめのフードに変更していきましょう。
肥満の原因になりますので、ドライフードを食べ放題の状態にしておくことはおすすめしません。
手術後の健康状態や、様子について少しでも不安だったり気になることがある場合は、すぐに手術を行った動物病院に問い合わせて指示を仰ぐようにしましょう。
猫の避妊手術には多くのメリットもありますが、もちろんデメリットもあります。
今後愛猫と長く一緒に生活していくためには手術すべきか否か、第三者の意見も仰ぎつつ検討しましょう。
執筆・監修:獣医師 にしかわ みわ
大学卒業後、一般小動物病院にて臨床獣医師として勤務、一次診療業務に携わる。
その後、都内大学付属動物病院にて研修獣医師として勤務、高次診療業務に携わる。
再び各地の一般小動物病院に勤務する傍ら、電話における動物健康相談業務にも従事。
海外にて動物福祉を勉強するため、2019年に欧米諸国へ留学。
現在は留学や臨床業務の経験を活かし、動物の健康や各国の動物福祉に関する記事の執筆業務を行う。
公開日 : 2020/07/09