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家庭で飼われている猫は、キャットフードを与えられることが多く、飼育環境から見れば完全な肉食動物とは言い難いですが、体の構造的には肉食動物の特徴を備えています。
現在ペットとして飼われる家猫は、食肉目ネコ科の肉食動物です。
ネコ科共通の祖先はスーダイルルス(Pseudaelurus)という2000万年前のヨーロッパにいた動物であると言われています。
歯の数がほかの動物に比べ極端に少なく、食べ物をすりつぶす臼歯がないことなど、現在のネコ科動物と同じ特徴が見られるそうです。
実際に犬と猫の歯の数を比較すると、犬は臼歯2本を含め42本あるのですが、猫は30本しかありません。
一般的に肉食獣の方が、歯の数が少ない傾向があります。
これは、消化に時間のかかる食物繊維をすりつぶす必要がないためだと言われています。
つまり、猫は犬よりも完全な肉食動物に近いということになります。
猫が肉食動物であることは、消化器官からも分かります。
肉食動物は植物から栄養を吸収する必要がないため、腸が短く出来ています。
猫の腸も例外ではなく、2mほどとかなり短い構造になっています。
ちなみに、犬は3.5mほど、馬は25mほど、牛は50mほどです。
動物はタンパク質を摂取することで、それをアミノ酸に分解し、必要に応じて合成し直すことで体を維持していますが、動物種によって合成出来るアミノ酸の種類が異なります。
食事量が充分であれば自分で作り出すことが出来るアミノ酸と、外から取り入れなければならないアミノ酸があるのです。
猫は他の動物と違い、体に必要な必須アミノ酸である「アルギニン」と「タウリン」を自分で生成することが出来ません。
これらのアミノ酸を得るためには肉類から摂取するしかないのです。
アルギニンやタウリンの不足は心筋症や失明などを引き起こすこともあります。
「ドッグフードを猫に与えるべきではない」ということを聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、これは犬と猫で生成出来るアミノ酸の種類が違うため、必要な栄養を取ることが出来ないからというのが理由です。
猫は本来魚を採る動物ではありません。
野良猫は、小鳥やネズミ、カエルや昆虫などを狩ることで食べ物を得ています。
しかし、「猫は魚好き」というイメージをお持ちの方は多いと思います。
巷に売られている猫グッズを見ても、魚と猫が一緒に描かれているものが沢山あり、猫と魚のイメージが日本人の中で一般的であることがうかがえます。
本来、魚を採る動物でない猫に何故「魚好き」というイメージが定着したのでしょうか。
その理由は、日本の食文化にありました。
日本国内には大昔から猫がいましたが、一般的に人に飼われ始めたのは江戸時代と言われています。
その頃は今のようなキャットフードなどはなく、人間のご飯の残りを餌として与えていました。
残り物のご飯や味噌汁などいわゆる「ねこまんま」が与えられていたのでしょう。
また、昔の日本は牛や豚などの肉を食べる文化はなかったため、タンパク質としては魚類が与えられていたと考えられます。
人間から与えられるごはんの中では動物性タンパク質は魚くらいしかなかったため、魚に対して食いつきが良く、その結果「猫は魚好き」というイメージが日本人の間で定着したと言われています。
日本に限らず海のある国では、猫は魚が好きというイメージがあるようです。
※合わせて読みたい: 猫に魚をあげても大丈夫?猫に与えて良い魚と魚を与える際の注意点、魚に含まれる栄養素をまとめて解説
肉食動物である猫のごはんやおやつにはどんな食材が適しているのでしょうか。
キャットフードを選ぶときや、おやつを与えるときのポイントについてお伝えします。
ネズミや小鳥、カエルなどを食べると、内臓や骨などを丸ごと食べることになるため、野菜や果物を食べなくても、ビタミンやミネラルを摂取出来ます。
つまり、野菜など肉以外のものを食べない代わりに、草食動物や雑食動物を丸ごと食べることで植物に多く含まれる栄養を摂取していたのです。
しかし、ペットとして飼われている猫は動物の内臓まで食べることはないので、肉や魚だけだと栄養面で偏りが出来てしまいます。
市販のキャットフードには、肉類以外の素材も使われています。
これは、野菜や果物などを加えることでビタミンやミネラルを補い、猫の健康をサポートするためです。
栄養面という観点から、キャットフードには様々な食材が含まれていますが、穀物に関してはアレルギーのリスクも指摘されています。
キャットフードを選ぶ際には、なるべく穀物が含まれていないものをおすすめします。
先ほどお話した通り、猫の腸は草食獣に比べると非常に短く、野菜や果物、ご飯やパンなどの穀物を消化するのに向いていません。
味噌汁にご飯を入れる「ねこまんま」は、原料が米と味噌なので、脂がほとんどなく、人間にとっては胃腸に優しい食べ物ですが、猫の消化に良いとは言えないのです。
野菜や果物、穀物などを少量あげたからといって、すぐに健康を害することはありませんが、おやつとして与える場合には動物性の食品が良いでしょう。
※合わせて読みたい: 猫のご飯には何をあげればいい?おすすめキャットフード16選から、猫の餌の選び方、ご飯の作り方まで
猫は動物性のタンパク質を多く必要とする動物ですが、魚や肉を与える際にはいくつか気を付けなければならないことがあります。
魚や肉を与えるときのポイントを見ていきましょう。
人間が食べているのを見て、お刺身などを欲しがる猫は少なくありません。
しかし、魚を与える際にはいくつか注意しなければならないことがあります。
生の魚介類を大量に摂取することで起こる病気として、イエローファット(黄色脂肪症)やチアミン(ビタミンB1)欠乏症などがあります。
漁港に住む野良猫など、青魚を常食としている場合に見られる疾患です。
おやつとして一切れ与える程度であれば心配ありませんが、手作りフードを与えている場合には摂取量に気を付けましょう。
アジやサバ、マグロなどの青魚を常食していたり、大量に摂取したりすると、青魚に含まれる「不飽和脂肪酸」が体内で酸化し、ビタミンEを破壊することがあります。
ビタミンEの減少は、皮下の脂肪組織に炎症を引き起こします。
炎症が起こった部分は硬くしこりになり、発熱と痛みを伴うため、この病気になった猫は不自然な歩き方をするようになります。
ちなみに、魚を主原料とするキャットフードにはビタミンEが添加され、栄養のバランスも整えられているため心配する必要はありません。
エビやカニなどの甲殻類、イカ、タコ、貝類に含まれるチアミナーゼによって引き起こされます。
重症になると、神経症状のためフラフラと歩くなどの症状が見られます。
この様子から、「イカを食べると猫が腰を抜かす」と言われることがあります。
一口食べたからといって病気になることはありませんが、イカやタコは硬く消化に悪いので、避けた方が良い食材です。
貝の内臓(特にアワビやサザエ)の中腸線という部分には、貝が食べた海藻が分解されて蓄積しているのですが、それを食べることで中毒を引き起こすことがあります。
貝はイカ、タコと同様に消化の点からも良くないため、与えないようにしましょう。
鮮度が落ちたお刺身は、人間と同様に食べると食中毒を引き起こします。
よく見られるのは、青魚による「ヒスタミン中毒」で、じんましんなどの症状が出ます。
ヒスタミンは加熱しても分解されないため、「火を通せば、多少古くても大丈夫」というのは間違いです。
与える際には新鮮な魚を用意し、長時間常温に置かないようにしましょう。
猫に肉を与える際、どのようなお肉をどれくらい与えると良いのでしょうか。
フードへのトッピングやおやつに最適な肉の種類と量についてお話します。
高たんぱく低脂肪の鶏肉は、トッピングやおやつにぴったりです。
量は、一日3cm程度を目安にしてください。
生の鶏肉には、下痢を引き起こす細菌がいることもあるので、必ず茹でるなど火を通して与えましょう。
豚肉や牛肉も脂身を取り除けば、鶏肉と同じように一日3cm四方のものを与えて構いません。
生のものには病気を引き起こす細菌や寄生虫がいる可能性があるので、よく加熱しましょう。
骨付きの肉や串付きの焼き鳥は、喉に刺さってしまうことがあり大変危険です。
絶対に与えないようにしましょう。
猫はもともと飲水量の少ない動物のため、ドライフードだけを食べていると便秘になることがあります。
しかし、食物繊維を与えることは、猫の消化器の構造上、自然なこととは言えません。
そこで、便秘解消に役立つのが肉を茹でたスープです。
茹でた肉と一緒に与えたり、フードに少し混ぜたりすることで、水の摂取量が増え、便秘の予防や解消に繋がります。
肉食動物としての猫の体の特徴や最適な食べ物などをご紹介しました。
現代のキャットフードのイメージから、猫は雑食だと思っていた方もいらっしゃるかもしれませんが、猫は肉食動物であるということがお分かりいただけたと思います。
野生動物とは違い、ペットとして飼われている猫に生の肉やネズミなどを与えることは、人獣共通感染症を広げる恐れがあり、人間にも病気のリスクがあるため避けるべきです。
タンパク質を多く必要とする猫には、健康的なおやつとして、茹でた肉などを与えてみてはいかがでしょうか。
食材の安全性に注意しながら、ごはんやおやつを通した猫とのコミュニケーションを楽しめると良いですね。
執筆・監修:獣医師 近藤 菜津紀(こんどう なつき)
原因不明の難病に20年以上苦しみながらも、酪農学園大学獣医学科を卒業後、獣医師免許を取得。
小動物臨床や、動物の心理学である動物行動学を用いたカウンセリング、畜場での肉の検査(公務員)など様々な経験を経て、現在は書籍の執筆や講演活動などを行なっている。
車椅子生活をしながら活動する、日本で唯一の「寝ながら獣医師」。
最終更新日 : 2020/11/27
公開日 : 2020/11/27