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低体温が何度なのかを理解するためには、まず猫の平熱を把握しておく必要があります。
人では体温が36.5度であれば平熱ですが、猫では低体温です。
猫の体温が36度台であれば、低体温の可能性があります。
37度でも、前半(37.4度まで)であれば若干低めと言えます。
生まれてすぐの子猫の体温は36度、それから少しずつ上昇して、生後7日には38度になります。
この時期(へその緒の付いているような)の子猫は自分で体温を維持することができません。
そのため、母猫のお腹の下の体温や同腹子の猫同士で集まることで体温を維持します。
もし生まれたばかりの子猫を育てることになった場合には、子猫の体温を温かく保つことが命を助けることに直結します。
生まれてすぐ、24時間以内であれば温度は30度~33度に保ち、その後の3日から4日は26〜30度にします。
環境の温度を一定に保つことはとても難しく、可能であれば動物用のICUを持っている動物病院に預けるのも良い選択肢でしょう。
子猫を拾ってしまった時に、もし子猫の体温が36.5度以下であれば深刻な低体温です。
まずは保温して体温を上げることが救命の第一歩です。
猫の体温は基本的には38度台で、興奮時には一時的に39度になることもあります。
興奮時には血糖値や心拍数、呼吸数が上がるため、一時的に高体温になります。
逆に、健康な状態で低体温(37度前半)になることはほとんどありません。
寒い場所にずっといた猫の耳がいつもより冷たく感じても、それは体温が下がっていることとは直結していません。
体温と体表の温度が必ずしも同じではないからです。
基本的には、温かい環境に戻してあげれば耳も温かくなります。
何か体調不良がある場合は、耳や足先の冷えがあると低体温になっている可能性があります。
猫も人と同様に、高齢になって代謝が落ちると平熱が下がるのでは?と考える方も多いでしょう。
しかし、高齢の猫さんの診察をしていても、健康であれば高齢であっても38度の体温があることがほとんどです。
それは猫は人や犬と違って、常に交感神経が優位(代謝が活発)な動物であり、さらに高齢になる長寿の猫であれば甲状腺機能亢進症(代謝が亢進)であることが多いためです。
それでも、若い頃に比べれば何かの病気(多くは腎不全、腫瘍)を患うことが多く、病気によって低体温(37度台)になってしまうこともあるため、老猫であればあるほど体温の管理は非常に大切です。
体温は健康のバロメーターとして重要です。
人であれば、最も正確な測定法は口に体温計を入れて、数分じっとしている方法です。
一般的には腋窩(脇の下)に体温計を入れて、ピピピとなるまでじっとしている計測方法、やや精度は落ちるものの非接触(肌に触れない)の体温計で体表面の体温から深部体温を計算して表示するものもあります。
最も簡易的なものであれば、額(おでこ)を触って他の人よりも熱いかどうかでしょうか。
猫では、この方法のどれも実施が難しいです。
口の中に体温計を入れてじっとしている猫も、脇に体温計を挟まれて待っている猫もほぼいないでしょう。
体毛があるために体表面の温度や触っての判断も正確性が低いものとなります。
体表面の体温は外気温に左右されやすいために、健康のバロメーターとしてはあまり信頼度が高くありません。
そのため、医療では「深部体温」というものを計測します。
深部、つまり体の中心部の体温ですが、生活している動物の中心部に体温計を入れることはできません。
そこで人では口の中の体温を計測しているわけですが、猫の口に体温計を入れるのは噛まれてしまうので難しいです。
猫を診察に連れて行った時に見たこともあるかもしれませんが、病院では肛門に体温計を入れて深部体温を計測します。
初めて見る方はビックリすることも多いのですが、これが一般的な猫の体温の測り方です。
動物用の体温計に使い捨てのカバーを付けて、痛くないようにゼリーやワセリンを塗って、お尻にそっと、ゆっくりと入れます。
そのまま表示された体温の数字が止まるまで少し待つと深部体温が測れます。
ご家庭で猫の体温を測定するために、お尻に体温計を入れるのはハードルが高いのではないでしょうか。
猫も嫌がりますし、飼い主様も何だか怖いと思われるのが普通です。
「それでも猫が低体温になっていないか心配なの!」という場合には、猫の脇の下に5分ほど体温計を挟んでじっとしてもらいます。
やや深部体温よりは低めに出るものの、大幅に下がって表示されることはありません。
健康な時から脇の下の体温を測っておけば、体調の悪い時の体温と比較することができます。
実は動物用の体温計と人間用の体温計では、内部に設定されている計算式が違います。
そのため、猫の体温は人間用の体温計では正確に測れない可能性があります。
もし人間用のものを猫に使用する時は、ピピピと鳴ってもそのまま体温計を動かさずに5分ほど置いておくと、ある程度は正しい体温に近付きます。
少しでも正確かつ簡単に猫の体温を測るためには、やはり動物用の体温計(接触性)を購入して使用することをおすすめします。
体温の計測以外で、猫の低体温を知ることはできるのでしょうか。
正確な体温は計測できなくても、低体温の時に見られる症状があります。
だいたいが命に関わる状況なので、これらの症状を見逃さないようにしましょう。
人も体が寒さを感じると、筋肉を震えさせて熱を生産しようとしますが、猫も同様です。
「ふるえ熱産生」といって、体温を保つための恒温動物の反応の一つです。
しかし、低体温にまでなっている場合は、基本的に震えていないことが多いです。
震えて熱を生産するなどの体温保持機構が破綻しているために低体温になっているのです。
最も危険な症状は、以下のように意識がはっきりとしない状況です。
また、部分的に体温が低い場合も要注意です。
上記の症状が見られたときは、急いで動物病院を受診する必要があります。
以下の状況では低体温になっている可能性があるので、早めに受診するようにしましょう。
この、「何か変だと飼い主様が思った・感じた」というサインはとても大切です。
高齢で慢性疾患を患っている猫では、明確に異変がなくても、何かいつもと違うと感じたら動物病院を受診するようにしましょう。
慢性疾患や消耗疾患を持っている場合には、食欲不振や脱水によって、血圧や代謝が低下するために低体温になっていることがあります。
以下では、全身的な低体温になる代表疾患の腎不全と糖尿病、部分的な低体温になる大動脈血栓症について解説していきます。
高齢の猫は腎不全を発症していることが多く、末期的なステージでは低体温を起こします。
腎不全の低体温の直接的な原因となるのは以下の通りです。
腎不全になっていると、常に軽度~重度の脱水状態になります。
血液循環(血液が体内を巡ること)を維持できないほどの脱水になった場合には、低体温に陥っていることがあります。
また、尿毒症になっていると悪心(気持ちが悪い状態)が続くために、食べることができません。
必要カロリーが全く摂取できていない状況では、体がエネルギー不足となり熱を生産することができなくなります。
腎臓は骨髄(骨の真ん中)に「血液を作れ!」という指令ホルモンのエリスロポエチンを分泌しています。
腎不全になると、エリスロポエチンを作る機能も低下してくるために、重度の貧血に陥っていることがあります。
重度の貧血では酸素を体に運ぶことが不十分になるので、正常な機能が働かずに低体温になってしまいます。
中高齢で発症することがある糖尿病では、以下2つのパターンで低体温になることがあります。
糖尿病の治療として、人と同様に猫もインスリン薬(血糖値を下げるための注射薬)を使用します。
このインスリンが効きすぎてしまうと低血糖(血液中の糖分が少なすぎる状態)になることがあります。
糖分は体のあらゆる部分での、大切なエネルギー源です。
一時的な低血糖では、低体温にまでなることはほとんどありませんが、低血糖から元気がない、ぐったりする場合には、低体温になっている可能性があります。
すぐに血糖値を上げるために糖分を舐めさせて、動物病院に連絡しましょう。
また、糖尿病性ケトアシドーシスとは、インスリンが足りずに高血糖が長く続いた状態で起きます。
猫の糖尿病の中でも、命に関わる状態だと思ってください。
インスリンというホルモンは、血液中の糖分を細胞の中に引き入れるための鍵(かぎ)の役割をしています。
インスリンという鍵が足りなくなると、血液中には沢山の糖分があるのに細胞は全くそれが利用できない状態です。
細胞に糖分が入らなければ、エネルギーを作ることができません。
細胞のエネルギー不足によって、糖尿病性のケトアシドーシスでは低体温状態になります。
猫の心臓の病気は多くないのですが、生まれつき心臓の筋肉が厚くなってしまう「肥大型心筋症」という病気があります。
猫の場合は、自分で動きを制限(疲れたら無理しないように)するために症状が出にくく、この心臓の病気になっていることに飼い主さまが気付かないことがよくあります。
肥大型心筋症によって、心臓(厳密に言えば左心房)の中に血栓(血液の固まったもの)が出来てしまうことがあります。
この血栓が心臓の中から血流に乗って出ていって、足先や手先、脳など細くなった血管の中で詰まってしまうのです。
これを「動脈血栓塞栓症」と言います。
この血栓が詰まってしまうと、そこから先の血管に血液が流れないことから、細胞が酸素や栄養不足になり壊死(細胞が死んでしまう)します。
すると詰まった部位の先(足や腕)の温度がどんどん低くなって、体の一部だけが低体温になります。
動脈血栓塞栓症は、命に関わる病態です。
手足を触ると痛がる、片方の足先(手先)だけが冷たい、肉球の色が白い(青みがある)のを発見したら、すぐに動物病院を受診するようにしましょう。
低体温の原因によって対策も違ってきます。
ライフステージに合わせて、低体温にならないための対策や温め方、注意点を知ってきましょう。
生後間もない猫は自力で体温を維持できないので、育てる場合には"保温が命綱"だと思って取り掛かりましょう。
まず、母猫の変わりになるような毛布やタオルを用意します。
そして26〜30度に保てるように、湯たんぽや動物用ヒーターを準備してタオルや毛布で巻きます。
直接的に熱源に子猫が触れると低温火傷をしてしまうので、必ずフワフワのもので巻くようにしましょう。
そして、子猫もタオルで包み込んであげます。
子猫が暑すぎた時には避難できるように、全部が温かい場所ではなく、熱源から離れられる場所も作っておきましょう。
子猫の近くに温度計を置いて、何度になっているのかを確認することも大切です。
健康体であれば、基本的に低体温になることはありません。
寒い冬でも、室内であれば問題なく体温を維持できます。
しかし、肥大型心筋症があって突然足先が冷たくなるということはあります。
この場合には足先を温めてはいけません。
とにかく冷たい部分には触らずに、直ぐに病院に行くことを優先してください。
高齢になってくると体温調節が難しくなってきます。
冬には温かい部屋を用意しているのに、玄関や廊下にいたりなど冷たい場所を好む高齢猫もいます。
基本的には無理強いはせずに、猫の居たい場所でくつろいでもらい、嫌がらなければフワフワの毛布やタオルなどを寛ぎスペースに敷いてあげましょう。
また、こたつが大好きな猫も多いので活用します。
ただ、気付かない間に脱水が進んでいることもあるので、長時間こたつに入りっぱなしになるのは避けるようにしてください。
いよいよ病気の末期の状態で、立つこともままならない状況であれば、冬には湯たんぽを使って体が冷えないようにしましょう。
その時にも、直接熱源に猫が接すると低温火傷をしてしまうので、必ず布を隔てて温めてください。
もし動く元気があるのであれば、基本的には低体温になっていることはありません。
ただ、なぜか体調が悪い猫は人の居ない方へ、寒い暗い方へ行くようになります。
このような行動が見られたら体調不良を疑いましょう。
本来猫は人間よりも体温が高く、抱き上げると温かい動物です。
体温を維持するというのは、恒温動物(いつでも温かい哺乳類や鳥類のこと)にとって基本的なことだと言えます。
この基本的な状態が保てなくなっている時は、生命活動の維持も難しくなっていると考えましょう。
低体温が疑われる時は、本記事を参考に適切な対処を行うようにしてください。
執筆・監修:獣医師 山口 明日香(やまぐち あすか)
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科卒後、2つの動物病院に勤務し、現在も臨床獣医師として働く。
ワークライフバランスを整えるため、在宅でのLINEおよび電話による健康相談、しつけ相談も開始。
その過程で、病気のみならず各種トレーニングと問題行動の大変さ、大切さを知る。
今後は学校飼育動物学で学んだ動物飼育と、子供の情緒の発達についても発信し、獣医動物行動研究会において問題行動の知識を深め、捨てられる動物が減るように正しい情報を伝えるべく模索中。
最終更新日 : 2021/11/10
公開日 : 2021/11/08