本ページに掲載のリンク及びバナーには広告(PR)が含まれています。
高齢の猫の夜鳴きには、その原因に病気が隠れているもの、認知機能や感覚機能の変化によるもの、不安感からくるものなど、沢山の要因が関係しています。
その一つ一つについて解説します。
12歳以上の高齢猫の90%に関節炎が発症していることがわかっています。
つまり、活動的になる夜には、動きたくても痛いなどの不快感が強く出ている可能性があるのです。
その他にも、以下のように高齢猫に痛みを伴う状況は多く存在します。
関節炎はレントゲン検査をすると、その有無と重症度がわかります。
口内炎は、ヨダレが増えていないかがポイントです。
口の周りを触ると嫌がる、食べた後に口を手で掻くなども口内炎の痛みのサインなので、見逃さないようにしましょう。
感染症については、免疫力が加齢により低下しているために、膀胱炎や腎盂腎炎(腎臓に細菌感染がおきている)などのリスクが高いです。
特に腎盂腎炎は痛みが強いので、背中を舐めたり、背中を触られるのを嫌がっている時には注意が必要です。
また、高齢期になればなるほど腫瘍のリスクが高くなります。
どこに発生するのかによって、痛みが出る場合と全く症状が出ない場合もあるので、定期的な検査を受けることで早く見つけられるようにしましょう。
加齢によって目がよく見えなくなってくるのは、人間も猫も同じです。
そして、見えなくなると少しの変化でも大きな不安感となり、その発露として夜鳴きをするようになるのです。
聴覚も加齢とともに低下します。
すると、自分の声もあまり聞こえなくなることから、さらに大きな声で鳴き、違和感や不安感が強くなるようです。
慢性腎不全や糖尿病が隠れている場合には、猫はいつでも喉が渇いている状態です。
喉が渇くので、夜に眠れずに起きてしまう、飲むとトイレに行きたくなるので眠れずに起きてしまうということが繰り返されます。
水皿がご飯やトイレの近くに置かれていたり、水に食べカスが混じっていると、猫は腐った水だと認識してしまうことがあるので、それに不満や不快感があって鳴いているのかもしれません。
猫の飲み水は、必ずご飯やトイレから30cm以上離れた場所に置き、1つではなく複数個を準備するようにしましょう。
高齢猫で夜鳴きがあり、食欲があって下痢や吐き気、体重の減少を伴う時には、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)」の疑いがあります。
人間でもバセドウ病という名前で有名な甲状腺機能亢進症ですが、若返りホルモンである甲状腺ホルモンが少し多めに出ている猫は長生きしている傾向にあります。
しかし、多くホルモンが出すぎていると心拍数が高くなり、ソワソワして激しく夜鳴きをしたり、高血圧症を引き起こしたりなど健康を害するようになります。
また、食欲は増進傾向になるので、夜でもお腹が空いてしまって"アオーン"と鳴いている可能性があります。
いわゆる認知症というものが高齢の猫にも存在します。
老化に関連する認知機能の低下(障害物を避けられない等)、刺激に対する反応の低下(ぼんやりと立ち尽くす等)、学習と記憶の消失(トイレの失敗が増える等)、昼夜の逆転による夜鳴きがあり、日常生活に支障が出ている状態です。
加齢による脳の萎縮が主な原因であり、多くの文献では11~14歳の約30%、15歳以上では50%の猫に行動の変化が起きているとされます。
睡眠に関する変化としては、以下の特徴があります。
確定診断にはMRI検査が必要ですが、認知機能不全評価質問表というものがあるので、動物病院でチェックしてもらいましょう。
何かしらのキッカケで、夜中に猫が不安で大きく鳴いた時に、飼い主さんがすぐに来てくれると猫は学習します。
鳴くと来てくれると学んだ猫は、夜中にどんどん鳴くようになります。
激しく鳴くので、飼い主さんも対応しない訳にもいかなくなり、毎回対応してしまいます。
すると、夜鳴きの習慣が強化され、夜に眠れない飼い主と、飼い主が来るまで鳴き続ける老猫の関係になってしまうのです。
先述した通り、甲状腺機能亢進症が夜鳴きの原因疾病としては有名です。
他にも、二次的に関節炎、膀胱炎や腎盂腎炎など痛みを伴う病気のサインであるとも言えます。
本格的に具合が悪くなると、今まで夜鳴きをしていた猫が鳴かなくなることがあります。
何の対処もしていないのに、夜鳴きが無くなった時にも注意が必要です。
元気に鳴いていたのに、最近は鳴かなくなったな…という時には心配した方が良いでしょう。
夜鳴きが始まった時点で、一度は受診するようにしましょう。
隠れた病気で、猫が苦しんでいるかもしれません。
また、前述したように鳴いていた老猫が鳴かなくなった時も大切な受診のポイントです。
大体の夜鳴きは、治療や対策の後も完全になくなることはありません。
そのため、全く夜鳴きをしなくなった時には、鳴くほどの元気が無くなったのではないかと考えるようにしてください。
動物病院では以下のような検査を行っていきます。
まずは身体検査から、どこか痛い部分がないか、リンパ節は腫れていないか、口内炎は無いか、歩き方に問題は無いか、熱は無いかなど、様々な病気のサインを掴みます。
尿を持っていければ、尿路感染(膀胱や腎臓に細菌がいる)がないか、糖尿病がないか、薄いオシッコをしていないかという重要な尿検査が実施できます。
尿だけの提出で検査できるので、病院に行くのがとてつもなくストレスになる猫にはおすすめです。
血液検査では、貧血がないか、感染や炎症が出ていないか、腎臓や肝臓の機能低下がないかの確認、そして甲状腺ホルモンの測定を行います。
また、レントゲン検査をすると、関節炎がどこにあり、どれほど酷いものなのかを確認することができます。
人間と同様に、高齢期の猫には高血圧が多く存在し、様々な悪影響を及ぼすため、血圧測定も大切です。
必要に応じて超音波検査も行っていきます。
二次診療施設では、CT検査やMRI検査も実施する選択肢があり、脳内などの中枢神経の問題や、脊髄神経の問題も発見することができます。
関節炎の存在が明らかになった場合は、生活環境で関節に負担がかかる場面を改善していきましょう。
例えば、トイレに入るためには大きく跨ぐ必要のないように、滑らないスロープを設置したり、あるいは敷居の低いトイレをもう一つ用意してみるのもおすすめです。
高いところに上りたい習性のある猫のために、お気に入りの場所には段差ではなく、スロープで上がれるようにしましょう。
関節炎があまりに酷い場合には、獣医師が痛み止めを処方することもあります。
痛み止めを服用することによって痛みが軽減すると、猫の活動性が上がるために、筋力を温存することが出来ます。
腎臓に負担がかかる場合もあるので、痛み止めの使用も注意が必要ですが、痛みがなく猫が運動してくれることがとても大切です。
猫に強い不安感が出ているようであれば、飼い主の近くで寝てもらうのも1つの策です。
「それでは夜鳴きが煩くて眠れない…」という結果になることも多いため、健康面に問題が無いことが確認できている時には、飼い主の睡眠を邪魔しないような対策を取るようにしましょう。
具体的な方法としては、飼い主が耳栓をする、違う部屋で就寝する、昼夜逆転に効果のあるサプリメントを試す、不安感を軽減するサプリメントか薬を処方してもらうなどです。
甲状腺機能亢進症や口内炎、腎不全などの病気が明らかになったのであれば、治療を開始することで夜鳴きが軽減するケースは多いのですが、完全に鳴かなくなることは少ないでしょう。
やはり認知症が根底にある場合が多いので、ある程度の夜鳴きは許容していく必要があります。
認知症の症状に効果的というデータが出ているサプリメントもあるので、獣医師から処方して貰いましょう。
何をやっても毎日の夜鳴きが激しく、寝られない毎日が続いて飼い主さまの健康面に問題が出てきてしまうほどのケースでは、獣医師に相談して寝かしつけるお薬を検討することも可能です。
寝ている時間がどんどん長くなる傾向にある高齢期の猫ですが、飼い主とのコミュニケーションを昼間にしっかりとることによって、気持ちの安定化や昼夜逆転の予防につながります。
ご飯をあげる時にも、ただ1日2回お皿に乗せるだけではなく、知育玩具の中にフードを入れて、夜に独りでも遊びながらご飯を食べられるようにするという工夫もできます。
また、最近では抗酸化成分を組成に加えることで、認知症に効果のある高齢期用のフードもあるので、試してみるのも良いでしょう。
夜の激しい鳴きが痛みや病気から来るものであると分かった時、無視して寝てしまったと後悔する飼い主様もいます。
夜鳴きが始まったらまずは病院で検査をしてもらい、話せない猫の状態がどうなっているのかをしっかりと把握することが大切です。
執筆・監修:獣医師 山口 明日香(やまぐち あすか)
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科卒後、2つの動物病院に勤務し、現在も臨床獣医師として働く。
ワークライフバランスを整えるため、在宅でのLINEおよび電話による健康相談、しつけ相談も開始。
その過程で、病気のみならず各種トレーニングと問題行動の大変さ、大切さを知る。
今後は学校飼育動物学で学んだ動物飼育と、子供の情緒の発達についても発信し、獣医動物行動研究会において問題行動の知識を深め、捨てられる動物が減るように正しい情報を伝えるべく模索中。
最終更新日 : 2021/08/25
公開日 : 2021/08/25