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まずは、犬にマッサージをすることでどのような良いことがあるのかを解説します。
人と同様に、機能の改善や心地よさ(リラックス効果)、そして飼い主さまにとっても大切なスキンシップの役割があります。
マッサージの基本は、手足の先端から体幹(体の真ん中)への動作を繰り返すことです。
これによって、血液やリンパ液の循環が刺激され、代謝が亢進して組織(筋肉や神経など)を活性化させることができます。
また、「 ドレナージ 」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
マッサージによる繰り返しの圧迫により、リンパ管や血液に圧力差を作ることによって、体の先端部(いわゆる手足の先)から体幹へ体液を移動させます。
これによって、組織の老廃物を押し流す排液(ドレナージ)の効果が出ます。
次に大切な効果は、柔軟性の回復です。
炎症が起きている(手術後やケガの後などで赤みや腫れがある)場所には、血管から組織に直そうとする物質がたくさん流れ出ます。
炎症も大切な作用ですが、その時に フィブリン と呼ばれる細胞をくっつける物質も一緒に血管の外に出てきてしまいます。
これが手術やケガなどの跡を固めてしまう原因で、「 癒着(ゆちゃく) 」という現象を引き起こします。
大きな傷には治ってもひきつるような痛みが出ることがありますが、その原因が癒着(ゆちゃく)です。
癒着が起きると正常な筋肉の動きで痛みが出たり、あるいは動かせなくなってしまうことがあります。
マッサージには、この癒着を抑える効果があります。
筋肉や皮下組織、血管も様々な方向に引き伸ばして、癒着が起きることを防いでくれます。
そうすると、固まってしまった関節や筋肉が大きく動けるようになります。
具体的に、マッサージが筋肉にどんな効果があるのか知りましょう。
まず、筋肉の柔軟性を強くします。
それによって、小さな動きから大きな動きも可能になり、筋肉が減少するのを防ぎます。
痛みやこわばりがある筋肉には、マッサージによって緊張を解く効果があります。
日常生活でも準備運動というものは大切です。
同じように、「これから動かすぞ!」と筋肉に準備させるため、運動やリハビリ前のウォーミングアップとしてマッサージは大切です。
神経に対しては、脳に痛みの軽減やリラックス感などの刺激を与えます。
逆に、マッサージによって脳への痛み刺激を与えることもあります。
これは、椎間板ヘルニアなどによって神経麻痺が起きている場所に刺激を与えることで、末梢の神経から脳への刺激を繰り返すことで、残った神経の機能を活発化させることになります。
すると、麻痺していた場所に少しずつ機能(感覚や可動性)が戻ってくる効果が期待できます。
痛みのある場所には、炎症物質(腫れや赤み、痛みを強くする物質)が多くなっています。
マッサージによって炎症物質もドレナージ(排液)されるので、不快感が早く治まる効果があります。
痛みが軽減されると、犬もその部位を動かすことを嫌がらなくなる傾向にあり、筋肉を維持するための運動がしやすくなります。
マッサージが気持ちの良いものだと分かると、犬もマッサージの時間を楽しみにするようになります。
実際に、ストレスの指標であるコルチゾール(ストレスホルモン)がマッサージによって低下する、つまりストレスが軽減しているという実験結果も出ています。
マッサージがどれだけ犬にとって有効なのかを解説しましたが、次は「どんな時にマッサージが必要なのか?」についてお伝えします。
もちろん、元気で何も悪い所が無い犬にもマッサージは大切ですが、以下に述べる状況では積極的にマッサージを取り入れるようにすると良いでしょう。
いわゆる整形外科(骨や関節、筋肉をいじる手術)において、機能の回復を目指すためにマッサージは必須です。
内臓系(避妊去勢手術や、肝臓、腎臓、膀胱など)の手術では、ストレスの軽減には有効かもしれませんが、マッサージをやらなくてはならないということはありません。
なぜ整形外科の手術でなぜマッサージが重要なのでしょうか。
それは、リハビリテーション(機能回復)の準備運動と整理体操(クールダウン)の役割があるからです。
痛みを軽減して動かせるように手助けし、筋肉が減ってしまうのを防ぐことができます。
M・ダックスフントやコーギーなど胴長の犬種に多いと言われる椎間板ヘルニアでは、神経が椎間板物質によってつぶされて、神経麻痺の症状が出ます。
胴長犬種の腰だけでなく、実は椎間板ヘルニアはチワワやT・プードル、シーズー、パピヨンなど、近年の人気犬種でも頸椎(首のほね)や胸椎(背骨)、もちろん腰にも発症します。
椎間板ヘルニアは、痛みや麻痺によって元気消失や「キャン!」と痛そうに鳴く、重症であれば腰が立たない、排泄がコントロールできないという症状が出ます。
こういった神経障害の時にも、マッサージはとても大切です。
その理由は末端の神経(足先など)を刺激することによって、麻痺が軽減することがあるため。
ただ、神経が絡んでいる症状がある時には、絶対に自己判断で何かすることはせずに、必ず担当の獣医師に確認をしてから実施しましょう。
無理のある動きや体勢をさせると、麻痺が悪化してしまうことがあります。
ここからは、マッサージの手順を解説します。
まず、マッサージをする人が無理のない体勢であるようにしましょう。
リラックスには大切なことです。
そして、犬が嫌がらず、力を入れず、無理のない体勢であれば大丈夫です。
犬を真上から見る位置ではなく、横にいる状況の方が犬が安心します。
開始の合図から入ります。
合図といっても「始めます!」という声掛けではありません。
最初から痛みや麻痺のある患部に触るのではなく、全身を優しく撫でることから始めます。
これがマッサージの合図です。
犬にマッサージやリハビリに対して良い印象を持って貰いたいので、ご褒美やオヤツ(減量中であれば、主食のフード)を実施の前後にあげるのが良いでしょう。
これで、ようやくマッサージに入ります。
外科手術後であれば、以下の手順で行うのが基本です。
1~6までは準備段階で、7の関節の可動運動がリハビリのメインと言えます。
7に関しては、個々の症状によってやり方が違うので、担当の獣医師にリハビリメニューを考えてもらいましょう。
そして7が終わったら、今度は6→5→4→3→2→1と整理体操のようにクールダウンさせていきます。
特にどこかに問題がないという健康な犬は、1と7を抜かした2~6までを実施すれば大丈夫です。
上記では撫でる、さする、ゆらすと簡単に記載しましたが、「どうやるの?」と思われた方が多いことでしょう。
以下に、具体的なマッサージのやり方を解説していきます。
まず最初に行うテクニックであるストローキングの方法です。
指先か、手の甲を軽いタッチで体の表面を全身的にゆっくりと滑らせます。
頭から尾にかけてゆっくりと、前足から後ろ足にかけて、体幹から末端へ毛の流れにそって触りましょう。
この時はまだ圧力はかけずに、指先で触る程度の軽いタッチを心がけてください。
この時点で、筋肉の緊張がないか、熱感や腫れはないか、敏感な部分があるかなどを評価します。
続いて、エフルラージュです。
中程度の圧力をかけていきます。
手のひらで、足先から体幹へ(遠位から近位へ)リンパ液を流すイメージです。
それぞれの場所で10〜20秒ほど繰り返します。
痛みや緊張、こわばりのある部分では圧力を調節して、ゆっくりと行うようにしましょう。
これによりドレナージの効果が出ます。
エフルラージュによって血の巡りやリンパ液の循環が良くなったところで、次はリンギング(ゆらす)を実施します。
左右の手のひらを交互に動かして、軽く圧をかけながらゆっくりと揺らします。
筋肉の上の皮膚と皮下織を刺激して、体を温める効果があります。
この時に、浮腫(むくみ)やこわばりの有無を確認しましょう。
ペトリサージュ(もみ)はマッサージの基本であり、圧力をかける以外にも、しぼり上げやスキンローリングがあります。
具体的なやり方は以下の通りです。
マッサージの場所や、皮膚の余裕具合、皮下脂肪の付き具合によっても、どの「もみ」が良いのかが変わります。
全てやっていると犬が飽きてしまうかもしれないので、無理のない範囲で行うようにしましょう。
マッサージによって、循環が良化し、軟部組織(筋肉や脂肪など)の動きが良くなったところで、次に行うのが関節の曲げ伸ばしです。
機能の回復を目指すために、関節の可動域運動はとても重要です。
マッサージの範囲ではありませんが、リハビリに大切なので少しだけ解説します。
適応(やると良い時)は、長期間の寝たきりの場合、変形性関節炎、そして関節に関係する手術後です。
神経麻痺や神経障害があるときも、曲げ伸ばしも有効であることが多いですが、必ず獣医師の判断に従いましょう。
どのケースでも、炎症や痛みの有無を獣医師に確認してもらうことが大切です。
人であれば指示されれば曲げ伸ばし運動をしてくれますが、犬が自分から関節の曲げ伸ばし運動を何回も繰り返すということは基本的にありません。
そこで、最初の段階では人間が曲げ伸ばしをしてあげる必要があります。
その後には起立姿勢で、犬が自分から動けるように補助する形になります。
日頃から、愛犬とのコミュニケーションとしてマッサージをするのも良いことです。
マッサージを習慣にしておくと、リハビリが必要な場面ではスムーズに始めることができます。
それでは、特にリハビリが必要なタイミングとはどのような時なのでしょうか。
子犬の時期に、骨折や関節の問題で手術しなくてはならないことがあります。
成長期にある子犬が、手術によって片足を使用しない時期が長くなると、逆の足にも大きな負担がかかるようになります。
そのため、マッサージを活用して早期に痛みを軽減し、リハビリを開始することが望ましいです。
膝の中にある前十字靭帯が完全に切れてしまった時には、痛みも強く歩行も困難になります。
痛み止めの飲み薬で良化しない場合、外科手術になることが多いです。
手術の手技によっては関節の伸展が減少してしまうので、リハビリをして機能が回復するのを助けます。
持病を持つような年齢になると、犬の活動性が低下してしまい、筋肉量がどんどん少なくなってきてしまいます。
そして、寝たきりになってしまうことが高齢犬でも問題になります。
寝たきりの動物は、寝返り(体位変換)を自分でできないことが多く、体の下側になった部分の血行が悪くなります。
人と同様に、血行の悪化で床ずれができてしまうと、犬も治すことが難しいので、まずは寝たきりになっても体を動かすように促します。
マッサージとリハビリで筋肉量が低下しないように努め、立てなくなってしまってもマッサージによって血流を良くすることで床ずれを防止します。
緊急の手術でなければ、手術をする前からマッサージやリハビリを開始していることが望ましいです。
これによって、飼い主さまもワンちゃんも慣れた状態で術後にリハビリを開始することができます。
そうとはいえ、しっかりとした機能回復用のリハビリは、冷却療法や温熱療法から開始して、マッサージ、関節の可動、自重運動、そしてマッサージ後にまた冷却療法をやらねばならず、かなり時間がかかります。
それを「1日に3回やってほしい!いや、4回はやってもらいたい!」と獣医師は思っています。
ただ、かなり飼い主さまに負担になることではあるので、逐一担当の獣医師に相談して進めるようにしてください。
また、痛みがある時には、それを軽減してから実施することが大切です。
痛いのに無理にマッサージやリハビリをすると、飼い主さまとのワンちゃんとの関係にヒビが入ってしまうことがあります。
マッサージの開始前後には、ご褒美としてオヤツやご飯を少しあげるのもおすすめです。
小さな時からマッサージに慣れておいて、飼い主さまとワンちゃんとの素敵なリラックスタイムになるのが理想ですね。
執筆・監修:獣医師 山口 明日香(やまぐち あすか)
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科卒後、2つの動物病院に勤務し、現在も臨床獣医師として働く。
ワークライフバランスを整えるため、在宅でのLINEおよび電話による健康相談、しつけ相談も開始。
その過程で、病気のみならず各種トレーニングと問題行動の大変さ、大切さを知る。
今後は学校飼育動物学で学んだ動物飼育と、子供の情緒の発達についても発信し、獣医動物行動研究会において問題行動の知識を深め、捨てられる動物が減るように正しい情報を伝えるべく模索中。
最終更新日 : 2022/02/18
公開日 : 2022/02/10