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生肉を与えることは犬本来の食餌に近いので、消化吸収に良いのではないか、犬がより一層好むのではないかという意見が多いようです。
また、加工することによって栄養素が壊れる、酵素が壊れる、ビタミンが失われるという話も散見されます。
確かに、人もわざわざ専門店に行ってまで生の肉を食べようとする傾向からも、生肉というのは肉食動物、雑食動物にとってなんらかの魅力をもっているのは間違いないでしょう。
生肉は獣医学領域からすると感染のリスクが大きく、決してお勧めできるものではありません。
それでも犬が人と同じように、他にはない生肉を食べる楽しみというものがあるのであれば、嗜好品としての働きは期待できると考えます。
また、添加物や保存料を気にする飼い主さんにとっては、無添加のオヤツという位置づけに当てはまるでしょう。
感染症、食中毒に十分に配慮する形で、特別なご褒美としてトレーニングで用いれば犬の生活に活気がでるかもしれません。
中には好まない犬もいるので、無理にあげるのは止めましょう。
その他、生肉は栄養素の偏りがあるため、食べ過ぎには注意が必要です。
主食(総合栄養食のドッグフード)の量が減ってしまっては、健康に害が出てしまうこともあるので、与える量はほんの少しに留めましょう。
犬に生肉を与える場合は、下記にあげる危険性について、しっかりと把握しておくようにしましょう。
犬だけでなく、飼い主さんにも感染が広がる可能性があるので、扱いには注意が必要です。
「犬が生肉を食べてしまった!病気になりますか?」というご質問も多く聞かれます。
生肉の危険性は、主に食中毒です。
食中毒とは、食べたものによって、下痢や嘔吐などの諸症状を出す状態です。
ここでは、スーパーなど店頭で手に入る生肉の危険性についてお伝えします。
スーパーで販売されている生肉において、もっとも病原性の細菌が付いている可能性が高いのは鶏肉です。
ある調査では、店頭の生の鶏肉の4〜6割にカンピロバクターと呼ばれる細菌が付着していました。
カンピロバクターは、無症状で終わることもありますが、多量に食べてしまった場合や、免疫力が落ちている場合には、下痢、嘔吐、発熱などの症状が出ます。
少量の菌数で人にも感染しますので、注意が必要です。
生食には向かない肉と考えてください。
主に病原性大腸菌、そしてカンピロバクターによって引き起こされます。
また、自由に野原を放牧しているタイプの牛の肉の場合、条虫や線虫といった寄生虫の感染リスクも高くなります。
大腸菌やカンピロバクターで発症した場合、鶏肉と同じく数日後に下痢、嘔吐、発熱が主な症状となります。
寄生虫の場合、劇的な症状が出ないことも多いため、感染に気付けないことがほとんどでしょう。
人にも感染するため、下痢があった場合には十分な注意が必要です。
多くは病原性大腸菌、サルモネラ菌、そして人の胎児に影響が出ることで有名なトキソプラズマ、またトリヒナと呼ばれる寄生虫など、豚肉の生食には危険がいっぱいです。
最初に感染したのが犬でも、発症すれば細菌は人にも感染します。
寄生虫に関しては積極的な治療法もありません。
豚肉の生食はリスクが高すぎるので食べさせるのはやめましょう。
膵臓という臓器は、タンパク質と脂肪を分解するための消化酵素を分泌しています。
肉はタンパク質の塊です。肉の部位によっては脂肪が多く含まれているものもあります。
通常はバランスのとれたドッグフードを食べている場合、大量に食べ慣れないタンパク質と脂肪が入ってくると、膵臓に負担がかかりすぎて、膵炎という病気になってしまうことがあります。
膵炎は吐き気や下痢、軟便が主な症状ですが、ハッキリとしない場合も多く、何となく元気が無い、どこか痛がる、少し食欲が落ちているけれど、何だか分からないという不定愁訴になり発見が遅れます。
慢性膵炎に移行することも多く、生涯にわたって低脂肪の療法食になることがあります。
店頭で手に入る生肉のほとんどが、しっかりとした加熱をしてから食べることを前提に売られています。
犬だからといって、それらを生肉で与えることは絶対にやめましょう。
上記のような感染症のリスクがあります。
犬用の生肉を専門で取り扱っているお店から入手するのが、最低限の条件です。
また、その専門店の生肉であっても、人への感染に配慮されているわけではないので、必ず扱う時には使い捨てのビニール手袋を使用して生肉を触るようにしましょう。
最初は出来れば軽く湯をくぐらせるのが良いでしょう。
ほんの一口から与えるようにして、数日は体調に変化が出ないかどうかを見ます。
また、犬自身が喜ぶのかどうかも大切なポイントです。
賢い犬ほど、美味しいものが出てくるのを知ると、主食(ドッグフード)を食べなくなる傾向があります。
中にはオヤツが出てくるまで空腹を貫いて、胃液を吐いても主食を食べなくなる犬もいます。
嗜好品(オヤツ)として、生肉がどのくらいの魅力を持つのか、その犬によって異なりますが、もしドッグフードよりも好きになってしまう場合には注意が必要です。
栄養バランスを崩すほどに欲しがる場合には、量をしっかりと守ることを意識しましょう。
また、単純に体重換算することはできませんが、5kgの体重の犬に10gの生肉を与える場合、体重50kgの人が100gの生肉を食べることと同じくらいと想像しましょう。
人が100gの生肉を食べるのはリスクの高い行動だということがお分かり頂けると思います。
生肉を食べた後に下痢や吐き気が出てしまったら、下痢便と吐物を持って動物病院を受診するようにしましょう。
また、それらが感染源となる可能性があるので、素手では触らないように注意し、漏れ出ないようビニールで密閉します。
動物病院で適切な検査と治療を早く受けることが大切です。
感染症ではなくて、肉が体に合わない、アレルギー反応がでるケースもあります。
その場合も感染と同様に吐き気と下痢という症状、そして皮膚が赤くなる、湿疹ができる、顔が腫れるなどの症状が出ます。
人もそうですが、犬も重症化した下痢と吐き気の時は、内服薬(飲み薬)を受け付けないこともあります。
吐き気や下痢で内服薬が使用できない場合、注射で治療薬を入れる必要が出てくるため、毎日の通院あるいは入院での点滴治療となることがあります。
入院は、動物への負担も大きいため安易に推奨はされませんが、下痢と吐き気による脱水が激しい場合には、体にかなりの負担が出てきてしまうため、入院下での点滴治療が必要です。
家庭内で飼われている犬の寿命が、だいたいの場合10年を超え、長寿である場合には20年のケースも存在します。
野生の犬あるいはオオカミの寿命は、長くても7〜8年と言われています。
家庭内の犬が長生きなのは、環境によるものが大きいです。
その環境の中には、安全で良質なドッグフードを食べているという要因も大きく関与しています。
あえてリスクの多い生肉を犬に与えることは、愛犬の長寿を目指す観点からも推奨されません。
加熱によって、そのリスクが軽減し、安全で犬の喜ぶオヤツの役割をしっかりと果たすのであれば、加熱したものが一番おすすめです。
肉に含まれる生酵素という話も聞きますが、酵素であれば犬の胃内に入った時に必ず失活しています。
酸化しやすい脂肪酸に関しては、一考の価値はありますが、生肉からではなく安全なサプリメントで摂取するほうが多く体内に入ります。
つまり、犬の健康面に重きを置くのであれば、生肉が一番良いということはありません。
どうしても、生肉でなければ犬が喜ばないという場合にのみ、嗜好品として少量与えるのが良いでしょう。
犬の好みや楽しみも大切ですが、一番大事なのは犬の健康です。
肉の摂取量によって、持病が悪化してしまうことがあります。
これは加熱してある肉であっても同じです。
以下の病気を持っている犬への肉の給餌は、必ず担当医に指示を仰いでからにしましょう。
それぞれの病気のどの段階にあるのかによって、大きく状況が変わってきます。
また、高脂血症になりがちの犬種も注意が必要です。
上記の犬種すべての犬が高脂血症になっているわけではありませんが、診察では高脂血症を多く見かけます。
高脂血症の悪化、膵炎のリスクがあります。
生肉の魅力は、他に無い旨味や柔らかさかと考えられます。
保存料の無い、安全な生肉を嗜好品として与えることで、犬の生活に活気が出るかもしれません。
トレーニングのご褒美としては、犬が好めば特別なものになるでしょう。
しかし、人間が生肉を常食しないように、犬にとっても感染のリスクは高いものになるので、食中毒の症状が出ないか十分に注意してください。
生肉を食べていた時代の犬よりも、安全なドッグフードを食べている今の犬の寿命は飛躍的に伸びていることも忘れてはいけません。
また、犬種や持病によっては肉の摂取が健康を害することもあるため、必ず担当医に確認することが大切です。
執筆・監修:獣医師 山口 明日香(やまぐち あすか)
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科卒後、2つの動物病院に勤務し、現在も臨床獣医師として働く。
ワークライフバランスを整えるため、在宅でのLINEおよび電話による健康相談、しつけ相談も開始。
その過程で、病気のみならず各種トレーニングと問題行動の大変さ、大切さを知る。
今後は学校飼育動物学で学んだ動物飼育と、子供の情緒の発達についても発信し、獣医動物行動研究会において問題行動の知識を深め、捨てられる動物が減るように正しい情報を伝えるべく模索中。
最終更新日 : 2021/07/05
公開日 : 2021/07/05