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どうしてはちみつは危険?はちみつにより起こる乳児ボツリヌス症
はちみつは、人間にとって美容や健康に良いと言われている食品です。
しかし、生後1歳未満の赤ちゃんに与えると危険という話は聞いたことのある方も多いと思います。
それでは、犬にとってはどうなのでしょうか。
実は、犬にはちみつを与えることは可能です。
ただし、年齢・健康状態・量に気を付ける必要があります。
人間の1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけない理由としては、乳児ボツリヌス症という感染症の発症の恐れがあるためです。
この感染症の原因菌は、ボツリヌス菌(clostridium botulinum)といいます。
生後1歳未満の赤ちゃんにおいては、腸内環境が大人とは異なり、腸管内にボツリヌス菌が住み着き、増殖が起こりやすいとされます。
この菌は酸素の少ない状態で増殖し、自分の適さない環境になると、乾燥や熱に強い「芽胞(がほう)」を形成します。
「芽胞」は、適した環境になると再び活発に増殖し、極めて強い毒素を産生します。
この芽胞で汚染された食品を乳児が食べると、腸管内で発芽、増殖して、毒素を産生して乳児ボツリヌス症を発症することがあります。
健康な大人の場合、ボツリヌス菌を食べてしまっても腸内環境が整っているため、ボツリヌス菌は増殖することが出来ず、問題になることはありません。
生後1歳以上になれば、離乳食などにより腸内環境が整うので、蜂蜜を食べることができるようになります。
しかし、体内でボツリヌス菌が増えないとされている健康な成人でも、ボツリヌス菌の脅威にさらされることもあります。
それは、食品の中でボツリヌス菌が産生した毒素を摂取した場合です。
健康な成人でもボツリヌス菌が増殖、毒素を産生した食品を食べることで、食中毒を起こす可能性があります。
乳児ボツリヌス症は、ボツリヌス菌が体内で増え産生する毒素で、健康被害を起こす感染症ですが、ボツリヌス食中毒(食餌性ボツリヌス症)は、毒素を摂取することで症状を起こす食中毒です。
双方ともボツリヌス菌の毒素が原因で、健康被害を起こします。
ボツリヌス毒素は神経症状を引き起こすので、重度になると呼吸筋の麻痺を引き起こし死に至る場合もあります。
恐ろしいボツリヌス症は、犬にも起こるのでしょうか。
実は犬にもボツリヌス症は起こります。
犬で報告されているのはボツリヌス食中毒(食餌性ボツリヌス症)です。
犬の場合は腐った肉などを食べて発症することが多く報告されています。
ボツリヌス菌は毒素の抗原性によりA〜Gの7型に分類されていますが、人間ではABEF型が主に食中毒の原因菌です。
犬で原因となるのは主にC型です。
1983年に子犬のボツリヌス症の報告があります。
シドニーの公園で腐ったアヒルの死骸を食べてから4日後に、生後6か月のオーストラリアンキャトルドッグの子犬に麻痺が発生しました。
その犬の食べた肉からボツリヌス菌C型が分離され、C型毒素も犬の糞便中に検出されました。
同時に、同じ肉を食べた他の二匹は食べた量が少なかったため、深刻な症状は示さなかったとのことですが、重症の犬では肉を摂食後114日後もボツリヌス菌C型が糞便中に検出されていたとのことです。
また、2014年に英国小動物獣医師協会から、2歳の妊娠中のゴードンセッターが弛緩性四肢麻痺と呼吸困難の急性発症を起こしたことが報告されています。
その犬の血液から、ボツリヌス菌B型毒素が分離されました。
この報告の著者によると、これは犬におけるボツリヌス菌B型毒素が分離された初めての報告とのことです。
原因は保存状態の悪い乾燥食品ではないかと疑われています。
このように、犬でもボツリヌス症を発症する危険性はあるのです。
また、国内では人間でも1990年に北海道で発症した乳児ボツリヌス症でC型毒素が分離されていますが、はちみつ摂取歴は不明となっています。
平成29年度に発表された報告で、日本国内のハチミツ 131件中6件(4.1%)で A型、C型の毒素型のボツリヌス菌が検出されていますし、B型も真空パックの野菜や冷凍食品、ベーコンなどからも国内で検出されています。
はちみつの中でボツリヌス菌が芽胞から発芽して増殖し、毒素を産生することはないので、芽胞が含まれているという理由でハチミツが回収されることはありません。
そのため、犬のボツリヌス症でよく認められている型のボツリヌス菌の芽胞が、国内で販売されている蜂蜜に含まれている可能性はあります。
子犬や老犬、持病のある犬など、免疫力に不安がある犬ではハチミツは避けた方が無難であると言えるでしょう。
ただし、犬がハチミツを食べてボツリヌス症を発症したという報告は見つけられませんし、犬で問題になる場合は腐った肉や野菜などをゴミを漁って食べたというケースが多いので、ボツリヌス症の予防にはそちらの対策を重点的にするべきかと思います。
健康な成犬なら、与えることができるはちみつ。
もし与える場合には、何に気を付ければ良いのでしょうか。
ボツリヌス毒素に関しては、80度で20分加熱するか、煮沸1〜2分で失活します。
そのため、ボツリヌス毒素の対策には加熱が非常に有効です。
ただし、はちみつの中に含まれており、ボツリヌス症の原因になるボツリヌス菌の芽胞は、熱・乾燥・消毒に非常に強い状態になっています。
ボツリヌス毒素を産生する細菌がボツリヌス菌と定義されており、それらの特徴から4群に分けられています。
それぞれ滅菌できる温度にも違いがあり、犬に現在中毒症状を起こした報告されているC型・B型毒素を産生する群はⅠⅡⅢ群です。
芽胞に関しては、Ⅰ群120度4分、Ⅱ群80度30分、Ⅲ群100度15分の耐熱性があるとされています。
このため厚生労働省では、ボツリヌス菌が増殖し毒素を産生する可能性のある密封パックの食品では、120度4分間の加熱と10度以下の保存を勧めています。
ただし、はちみつの中に含まれている様々な栄養成分は加熱することで壊れてしまう可能性はあります。
免疫に不安のある状態では、与えることは推奨されません。
そのため、持病のある犬や老犬、子犬では与えることを避けた方が良いです。
1歳以上になって、しっかりと体が成長した健康な成犬であれば、はちみつを食べることに問題はないでしょう。
犬にはちみつを与える推奨量に明確なデータはありませんが、肥満予防などの観点から、多くても1日の必要カロリーの10%程度にすることが勧められています。
5キログラムの成犬の1日に必要なカロリーは約397キロカロリーなので、39.7キロカロリー程度に留めておいた方が良いでしょう。
蜂蜜は小さじ1杯(7g)21キロカロリーです。
5kgの犬で一日に小さじ1杯程度が目安です。
人間では砂糖の代わりに使用することで、甘みと同時にハチミツの栄養成分を摂取できるというメリットがあります。
犬では砂糖の代用が必要になること自体があまりないので、メリットは大きくないと言えるでしょう。
はちみつの主成分は果糖とブドウ糖で、どちらもこれ以上分解する必要のない単糖類です。
ご飯やパン、砂糖などの各種糖質が体内でエネルギーとして使われるためには、体内でブドウ糖と果糖、あるいは麦芽糖に分解したあと消化吸収されます。
はちみつは分解する必要がなく、すぐにエネルギー源として使うことができます。
そのため、胃や腸に負担がかかりにくく、すぐにエネルギーとして吸収されるため、エネルギー補給には優れた食品です。
もともと食が細い犬では、補助的なエネルギー補給に適しているかもしれません。
はちみつを与えるデメリットは、ボツリヌス症の感染リスク以外にもあります。
ハチミツの中には花粉が含まれており、その花粉に種々の栄養素が含まれています。
ただし、もしこれらの花粉にアレルギーがあった場合、アレルギー症状を起こしてしまう可能性は否定できません。
他にも、はちみつはカロリーが高いので、たくさん食べると肥満になってしまう可能性もあります。
また、過剰に与えると下痢をしてしまう可能性もあるため、与える際は少量に留めましょう。
犬に初めてはちみつを与える際には、ごく少量から様子を見ながら与えるようにすると安心です。
健康な成犬にはちみつを与えることはできますが、犬にはちみつを積極的に与える必要はありません。
犬には総合栄養食の表記があり、良質なドッグフードを与えていれば、栄養面をはちみつで補う必要はないのです。
ただ、とろりとした液状で甘い味の蜂蜜を犬が好むことは多いので、おやつ代わりに与えることは良いでしょう。
自分の愛犬の状態によって、はちみつの使用を検討するようにしてください。
執筆・監修:獣医師 にしかわ みわ
大学卒業後、一般小動物病院にて臨床獣医師として勤務、一次診療業務に携わる。
その後、都内大学付属動物病院にて研修獣医師として勤務、高次診療業務に携わる。
再び各地の一般小動物病院に勤務する傍ら、電話における動物健康相談業務にも従事。
海外にて動物福祉を勉強するため、2019年に欧米諸国へ留学。
現在は留学や臨床業務の経験を活かし、動物の健康や各国の動物福祉に関する記事の執筆業務を行う。
最終更新日 : 2021/03/17
公開日 : 2021/03/16